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99年の10大ニュース シドニー駐在員事務所 【野村 俊夫、藤島 博康】


1.豪州連邦政府が酪農制度改革案を発表
 豪州連邦政府は、9月、加工原料乳の価格補てん制度の撤廃(来年6月)に併せて
飲用向け生乳の価格支持制度も撤廃し、生乳の生産流通を完全に自由化させることと
引き換えに、個々の酪農生産者に過去の生乳生産実績に基づく総額18億ドル(約1,
260億円:1豪ドル=70円)の補償金を支払うという酪農制度改革案を発表した。
現在、豪州最大の酪農生産地であるビクトリア州で、同州の飲用乳制度撤廃の可否を
問う生産者投票が実施されているが、この決定が他州の動向を大きく左右することが
確実なだけに、その投票結果に注目が集まっている。

2.巨大乳業メーカーの設立を提案(NZ)
 ニュージーランド(NZ)酪農乳業の体制改革について検討していた諮問委員会は、
5月初旬、現存する酪農組合の大部分を合併し、かつ、乳製品の一元輸出を行ってい
るNZデイリーボードも統合して、同国の生乳生産量の95%以上(約1千万トン)
を取り扱う巨大な新乳業メーカーを設立する計画を発表した。その後、大手の酪農組
合が合併計画に基本的に合意し、デイリーボード法の改定も行われたことから、国内
経済への影響を考慮して同計画に難色を示している商務委員会の承認が得られれば、
生産者投票の実施を経て、来年9月には新乳業メーカーが誕生すると目されている。

3.豪州の牛肉生産量、2百万トンを突破
 98/99年度(7〜6月)の豪州の牛枝肉生産は、2百万トンの大台を超え、8
0年以降で最高の生産量を記録した。これは、と畜頭数が前年度よりわずかに減少し
たにもかかわらず、良好な気象条件の下で牧草の供給が潤沢となり、1頭当たりの枝
肉重量が大幅に増加したためである。また、放牧飼養条件の好転および牛肉国際需給
のひっ迫見通しを背景に生産者が肉牛の出荷を控えたため、肉牛販売価格が高値で推
移した結果、生産者の経営収支も大幅に改善され、同年度の1戸当たり平均赤字額は
前年度の約4分の1に相当する4,471豪ドル(約31万円)に減少した。

4.豪州の生乳生産量、1千万キロリットル突破
 豪州酪農庁の発表によると、98/99年度(7〜6月)の生乳生産量は、広範な
地域で降雨に恵まれたことや、飼料穀物価格の安値から穀物飼料の給与が増加したこ
となどを背景に、1千万キロリットルの大台を突破し、前年度を7.8%上回る1,
017万8千キロリットルを記録。生乳生産量は、81年以降、一貫して増加傾向に
あり、特に90年代に入ってからは年率約6%もの勢いで拡大している。次年度の生
産見込みは、98/99年度より約4%増との予測もあるが、現行の加工原料乳価格
支持制度が来年6月で廃止されるなど不確定要素も多い。

5.食肉パッカーの再編合理化が進展(豪州)
 豪州では、80年代以降、輸出拡大を見込んだ食肉パッカーの設備投資によってと
畜処理能力が過剰となり、ここ数年はその再編合理化が急ピッチで進められている。
本年においても多くの中小食肉工場が労使紛争などを背景に閉鎖された一方、1日当
たりと畜処理能力が3, 600頭という豪州最大の最新鋭工場がクインズランド州の
大手パッカーによって改装・設立された。また、9月には労使関係委員会が、豪州独
特の食肉工場労働者賃金制度であるタリーシステムの廃止を決定したことから、米国
やNZなどの競争相手国に比べて割高とされていたと畜処理コストの削減が進むと期
待されている。

6.米国のラム輸入制限措置をWTOに提訴(豪州)
 米連邦政府は、7月初旬、国内のラム市況が大幅に低迷した原因は豪州やNZから
の輸入の急増にあるとして、国際貿易委員会(ITC)の勧告に従い、通商法203
条に基づく3年間の輸入制限措置を決定した。これは、過去の実績に基づいて輸出国
別に関税割当を適用するというもので、初年度の割当数量は31, 851トン、枠内
税率9%、枠外税率は40%とされ、7月22日から実際に適用が開始された。これ
に対し、豪州連邦政府は、国内羊生産者の羊取引課徴金の負担を軽減する措置を講じ
る一方、10月にはNZとともに世界貿易機関(WTO)に提訴した。  

7.牛肉食味保証制度の全国展開を開始(豪州)
 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は、6月、新しい牛肉食味保証制度、ミート
・スタンダード・オーストラリア(MSA)の全国展開を開始した。MSAは、消費
者に牛肉の食味(おいしさ)を分かりやすくアピールすることを目的とするもので、
その品質基準に合格した牛肉をさらに3等級に区分し、トレイに付したMSAラベル
の色によって簡単に見分けられるように工夫している。MSA参加者は、肉牛生産者
から小売店に至るまで、それぞれ定められた条件を満たしてライセンスを取得する。
MSAは、既にシドニーなどで開始されており、来年8月までに全国展開される予定
となっている。

8.豪州の新食肉検査制度、米国が承認へ
 豪州連邦政府は、6月、危害分析重要管理点監視方式(HACCP)に基づいた輸
出向け食肉検査制度の改正について、米国農務省の承認を得たと発表した。同制度の
改正については、96年から着手されたいたものの、当初の改正案が米国に拒否され
たことから、両国共同での見直し作業が続いていた。政府によれば、公務員による検
査業務の一部が民間に移行されることによって、現行のと畜業者が負担する検査コス
トは低減されるとしているが、米国以外の輸出先国との調整など現場への導入に当た
っては、依然いくつかの課題を残している。
 
9.鶏のニューカッスル病が頻発(豪州)
 豪州では、1930年代にビクトリア州で鶏のニューカッスル病が2件発生して以
来、長年にわたってその発生が見られなかったが、昨年9月、本年4月および8月と
相次いで同病がニューサウスウェールズ州シドニー市の近郊で発生し、関係者に大き
な衝撃を与えた。特に、本年4月のマングローブマウンテンにおける大発生(約19
0万羽を処分)は、生産者に甚大な損害をもたらした上、その根絶に多額の費用を要
したことから、連邦政府は生産者への救済策を講じるとともに防疫対策の見直しを行
い、8月の再発生に際しては直ちにワクチンの接種に踏み切った。

10.WTO閣僚会議の決裂に失望(豪州)
 豪州連邦政府および農業畜産関係者は、12月初旬に米国シアトルで開催されたW
TOの閣僚会議が、交渉の開始に合意できずに決裂したことに対し、一様に強い失望
を表明した。牛肉、砂糖、乳製品など、今回の交渉で争点となるべき品目を重要な輸
出産品として抱えており、農産物貿易の自由化を推進するケアンズ・グループの主導
国としてもWTOの成果に大きな期待をかけていただけに、関係者の失望と怒りは激
しかった。全国農業者連盟の会長は、会議の決裂と少なくとも数ヵ月にわたる交渉の
遅延が、豪州の農業生産者にばく大な損害を及ぼすことになると激しい口調でコメン
トした。


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