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豪動物愛護団体、生体家畜輸出の規制強化求める


【シドニー駐在員 藤島 博康 2月18日発】昨年発生した生体牛の海上輸送中
の事故に関し2月12日、連邦政府は輸出業者に対する処分を発表した。これに対
し、動物愛護団体が「その場しのぎの取り繕いに過ぎない」として、家畜輸出反対
キャンペーンを強化するなど、たび重なる家畜輸送中の惨事に、業界を取り巻く環
境は厳しくなっている。

 今回、連邦政府が処分を発表したのは、昨年6月にウエスタンオーストラリア州
から中東に向けて出港した運搬船シャロレー・エクスプレスで、搭載された生体牛
1,254頭のうち最終的に400頭以上の牛がへい死した事件に関するもの。

 政府は、輸出業者であるウェラード社に対し、北半球で夏を迎える5月1日から
10月31日までの期間、南緯26度以南の豪州の港から北アフリカや中東諸国向
けの生体牛輸出を禁止するとの勧告を行った。ただし、この処分は、政府と生体家
畜輸出業者の代表団体であるライブコープによって、ウェラード社が業界基準を実
行できると判断されるまでの間と限定されている。

 今回の処分に当たり、政府は、調査の結果、長時間にわたった高温多湿による熱
暑ストレスが原因だった可能性が高いとしながらも、すべての要因を特定する確証
は得られなかったと結論付けている。また、輸出業者に対する処分については、輸
出業者のいかなる落ち度も証明できなかったことから、生体家畜輸出業者としての
ライセンスをはく奪するには至らなかったと説明している。

 これに対し、動物愛護団体の一つである動物愛護協会(RSPCA)は「輸出業
者は何ら法的な処罰を受けておらず、(政府勧告は)その場しのぎのための取り繕
いに過ぎない」とし、今後も、農場から目的地までの家畜の取り扱いに関して法的
な責任が明確化されるまで、生体輸出に反対を続けると非難を強めている。

 今年の1月27日には、ダーウィンからインドネシアに向かった運搬船テンバロ
ンに搭載された牛1,011頭のうち、換気装置の故障とみられる原因により、800
頭以上がへい死する事件が発生した。現在、管理記録など事件の詳細について海事
安全局により調査中であるが、シャロレー事件後、直ちに輸送規則が強化されたに
もかかわらず、わずか半年後の惨事の再発に、動物愛護派の態度は硬化している。

 少数野党の民主党はRSPCAに歩調を合わせ生体輸出の全面禁止、最大野党の
労働党は再発防止策の検討を要請している。また、豪州獣医協会は、テンバロン事
件について閣僚レベルで調査を実施するよう首相に求めるなど、議会でも動物愛護
の気運が高まりつつある。

 動物愛護の観点から、既に休息時間や連続輸送時間など事細かに定めるEUとの
比較では、現在の豪州の家畜輸送に関する規制は、船上での頭数密度や輸送中のデ
ータの管理義務などの大枠を示すに過ぎない。また、豪州からの家畜輸出は年間4
億豪ドル(約308億円:1豪ドル=77円)を超え、輸出の増減は農家経済にも
少なからぬ影響を及ぼしているだけに、長期的な存続に向けて、規制強化は避けら
れないものとみられる。


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