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【シドニー駐在員 藤島 博康 1月6日発】昨年12月17日、豪州・ニュージ ーランド食品基準会議(ANZFSC)は、一部の遺伝子組み換え食品の表示義務 付けを可決した。疑わしき物はすべて表示という方針に、消費者団体は歓迎の意を 表明しているものの、食品製造業者らは消費者への利益はなく、コスト増をもたら すだけと困惑している。 豪州連邦政府、州政府およびニュージーランドの保健担当大臣によって構成され るANZFSCによって今回可決されたのは、@製造業者が遺伝子組み換え食品を 原材料として使用したことを確認できる場合、A製造業者が原材料の中に遺伝子組 み換え食品が含まれているか不明な場合、2つのケースについて遺伝子組み換え食 品である旨の表示を義務付けるとするもので、今年から施行される。 なお、製造業者が原材料の中に遺伝子組み換え食品を使用していないことを確認 できるケースでは、遺伝子組み換え食品を使用していない旨を表示できるものの、 その義務は負わない。 今回争点となったのは、遺伝子組み換え食品としての表示義務対象が、従来の食 品と組成が変わらなくても、遺伝子組み換えが行われている食品にまで拡大された 点。具体例を挙げると、遺伝子組み換えによって雑草や害虫に耐性のある遺伝子を 組み込まれた大豆から精製した油やタンパク質などで、これらを原材料として使用 した食品は遺伝子組み換え食品として表示しなければならない。 同じ遺伝子組み換え食品でも、従来の食品と組成が異なるものや倫理的に問題の ある食品に関しては、既に昨年8月の会議で、本年からの表示義務付けが決定され たが、今回の対象となったものは当時の会議で結論が先送りされていた。 今回の決定に対して、食品製造業者の代表団体である豪州食品協議会(AFC) では、国際的な基準よりもかなり厳格なものであるとした上で、「遺伝子組み換え 食品使用の可能性あり」などとする表示は混乱をもたらすだけで、消費者にとって も意味がなく、無用なコスト負担を課すだけと非難している。 一方で、豪州消費者協会では、同協会の調査で8割以上の消費者が表示を希望し ていることからみても、消費者の知る権利を守るものだとして、今回の決定を歓迎 している。 ANZFSCの実務機関である豪州・ニュージーランド食品基準局では、遺伝子 組み換え食品の表示問題に関して、これまでは、組み換えによって組成が異なり人 体に影響を与える可能性があるものなどに限り表示するなど、どちらかといえば米 国基準に近い方針を示していただけに、今回の決定に意外感を抱く関係者も多い。 今回、表示の対象となった遺伝子組み換え食品に関しては、わが国でも表示義務 化をめぐる議論が続いている分野であるが、今回の決定は世界的にみてもかなり踏 み込んだものとなっている。 豪州での遺伝子組み換え農産物の生産は、現在のところ綿花など一部の品目に制 限され、米国の生産状況とは大きく異なることなども、今回の決定の背景となった とみられるが、今後、国際的な整合性をめぐり輸出国との間で議論となる可能性も ありそうだ。
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