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【ブエノスアイレス駐在員 浅木 仁志 5月6日発】アルゼンチンでは、飼料生 産の不作による去勢牛の供給不足などにより、98年上半期の去勢牛価格は近年ま れに見る高値を記録した。しかし、国内経済の悪化とブラジルの経済危機の影響で 農家が手持ちの家畜を売りに出したことなどから98年の半ばから去勢牛価格は急 速に下落した。 下のグラフは、93年から98年までの去勢牛の生体単価(おおむね380s以 上。肥育仕上がり段階のもの)の推移である。去勢牛価格に顕著な季節変動が見ら れないのは、牛群管理とサイレージ生産などの飼料保存技術が向上したこと、フィ ードロット肥育が増加したことなどによる。 97年半ばから牛の供給不足が顕著になったが、この時期に米国はアルゼンチン に対し2万トンの枠で生鮮牛肉、冷凍牛肉の輸出を認めた。このことが、去勢牛価格の 上昇を招き、98年8月まで高騰が続いた。消費については、この期間、国内経済が 上向きにあったこともあるが、消費量は高い水準で推移しており、アルゼンチンに おいて牛肉が主食として根づいていることがうかがえる結果となっている。 去勢牛価格は97年前半から既に上昇していたが、これは96年と97年の飼料 生産の不作が原因で、肉牛肥育生産者が必要な素牛を確保できないなど、去勢牛の 供給不足があったためである。 こうして去勢牛価格は98年上半期は上昇を続け、同年7月に1.28ペソ(約 154円:1ペソ=120円)/sという最高値をつけ、若雌牛価格も牛肉価格も 同じ傾向をたどり、同年8月にピークに達した。 要するに、高値を期待した農家の家畜保留の傾向、96年の飼料作物不作による 牛の供給減、強い国内需要などが価格を徐々に押し上げた原因である。 この期間中に牛肉輸出が大幅に減少したが、これは去勢牛価格が上昇したことに より、国際競争力が急速に低下したからである。 98年8月から急激に去勢牛価格が落ちた原因は、冬場の飼料生産が好調で春先 から素牛の供給が増えたこと、国内経済の悪化とそれに伴う高金利のため、現金を 必要とし、かつ、安値を恐れた農家が一斉に牛を売りに出し供給過剰になったこと、 去勢牛価格の下落が牛肉小売価格に連動せず需要が伸びなかったこと、ブラジルの 経済危機でアルゼンチンからの牛肉輸出が途絶えたことなどである。また、健康志向 と廉価のためブロイラーの需要が増えたことも原因として挙げられる。 なお、99年の去勢牛価格はここ数年の平均水準である0.75〜0.90ペソ (90〜108円)/kgと予想されている。
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