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ホルモン牛肉問題がエスカレート



【ブラッセル駐在員 池田  一樹 5月6日発】EUは、米国産牛肉の輸入を6月
15日から全面禁止する可能性を明らかにした。同国産牛肉から、成長促進のため
に使用されるホルモンの残留が発見されたためである。この他、ホルモンの発がん
性などを指摘した新たな調査結果を発表し、ホルモン牛肉輸入禁止措置の正当性を
訴える構えを強化している。

 EUの指定検査機関が、EUに輸出された成長ホルモン剤を使用していないはず
の米国産の牛肉および肝臓258サンプルについて残留検査を行ったところ、12%
に3種類の合成ホルモン(トレンボロン、ゼラノール、メレンゲステロール)の残留が認められた。米
国で投与が禁止されている雄牛や子牛の肉からも検出されている。このほか10%
のサンプルには、これらのホルモンが残留している可能性があるものの、微量なた
め確定できなかったとしている。なお、天然型のホルモンについては、1サンプルに
高濃度の残留が認められている。

 EUでは、天然型か合成型かを問わず、成長促進剤としてのホルモンの使用は禁止
されており、これらを使用した牛肉の輸入も禁止されている。

 このためEUは4月28日、米国が十分な改善措置を講じない限りは、6月15
日以降同国産牛肉の輸入を全面禁止することを決定した。ホルモン剤不使用とされ
る米国産牛肉の対EU輸出量は毎年7〜8千トン(約24億円)である。

 EUのホルモン牛肉の輸入禁止措置は、世界貿易機関(WTO)により、衛生植
物検疫(SPS)協定違反との裁定が下っており、5月13日までに同協定に沿っ
て改善するよう求められている。この期限を目前にした今回の方針決定により、米
国からの反発が高まることは必至である。

 さらに、EU−米国のホルモン牛肉戦争がエスカレートする兆しが見えてきた。
EUはもともとWTOの裁定について、輸入禁止措置の科学的根拠の欠如を指摘さ
れたと解釈している。このため、現在禁止措置の科学的な正当性を立証すべく、ホ
ルモンの安全性などに関する17の調査研究を実施中である。

  5月3日に報告された中間報告は、17βエストラジオール(天然型ホルモン)の発がん性
を示唆する最新の証拠が数多く得られているとしている。ただし、危険性を定量的
に推定するにはデータ不足としている。世界保健機関(WHO)などは、天然型ホ
ルモンは残留基準を設定せずに使用しても安全であるとしているが、今回の報告は、
こういったいわゆる常識に真っ向から対立するものとなっている。プロジェステロン、テスト
ステロン(以上天然型ホルモン)および前述の合成ホルモンについては、現状の知見で
は危険性を定量的に推定できないとしている。ただし、これらについても発がん性
のほか、遺伝毒性や免疫毒性などが考えられるとしている。さらに、ホルモンはヒ
トの体内で生産され、また、代謝排せつ能力も個人差、年齢差があることなどから、
摂取許容量を定めることができないともしている。

 このほか、米国ではホルモン剤が獣医師の処方も監督もなく使用されていること、
使用禁止対象牛への違法使用が見つかっていることなど、ホルモン剤の乱用を指摘
している。

 EUは、この中間報告で科学的根拠が得られたとして、ホルモン牛肉の輸入禁止
措置を維持するとともに、この場合予想される米国の制裁関税の発動に対しても根
拠がないとして争う構えを見せている。


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