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【シドニー駐在員 藤島 博康 5月18日発】5月12日、ニューサウスウェー ルズ(NSW)州政府は、中部沿岸のマングローブ・マウンテン地域で確認された ニューカッスル病(ND)に関して、当面の拡散防止対策を終えたと発表した。こ れまでにNSW州全体の飼養羽数の約6%に当たる190万羽の家きん類が処分さ れた。 NDの発生が確認されたのは、シドニーから80kmほど北に向かったブロイラ ー生産地帯であり、4月1日にND発生が報じられて以来、幹線道路での昼夜を徹 した検問など拡散防止策が講じられていた。今回の発生は、昨年9月にND発生が 確認された場所とは異なる地域であり、NSW州政府は、当時のNDについては昨 年11月までに完全に撲滅したとしている。 ND発生地を中心に、検疫上から制限地域と管理地域に区分したうち、制限地域 内でり患が確認された商業用家きん類(採卵鶏やカモなども含むが、ほとんどがブ ロイラー)の処分が実施され、5月12日までに、33農場で計190万羽が処分 された。 その後、NDは確認されていないことから、州政府は「発生確認から43日間、 政府機関のスタッフを中心にボランティアを含め1千人以上の懸命な努力によって、 ND撲滅に向けての最重要課題を遂行した」とする当面の収束宣言を行った。今後 は、制限地域内の家庭内消費用やペット用などの家きん類、また管理地域に対象を 広げ、対策は続けられる。 しかしながら、処分が実施された施設では今後も消毒殺菌などの措置が予定され、 生産再開のめどが立っていないことから、経済的な損害はこれからさらに膨らむも のとみられている。生産者の中には、民間のボランティア団体から食べ物の援助を 受ける者も出るなど、深刻な影響が出ており、連邦政府は生産者への所得補償など 総額850万豪ドル(7億1千4百万円:1豪ドル=84円)の支援パッケージを 発表した。 一方、業界関係者の間に、これまでNDの豪州侵入阻止を大きな理由としていた 鶏肉輸入への検疫規制が、今回のND発生を契機に、緩和されるとの憶測が流れた ことに対し、ヴェイル農漁林業大臣は、直ちにこれを一しゅうする声明を発表した。 ヴェイル大臣は、「NDを含めた感染症の侵入リスクを否定する科学的な確証が得 られない限り、無条件での鶏肉輸入はあり得ない」とした上で、「今回のNDは低 レベルの毒性を持つ菌が突然変異したものが原因であり、野鳥からは確認されてお らず、商業用の家きん類のみに発見された豪州特有の病原体である」としている。 これは、海外で発生しているNDは依然、豪州に上陸していないとする見解を示 すもので、検疫条件に関してはすべて科学的な検証に基づくとする豪州政府の従来 からの姿勢を強調するものとなっている。現在、豪州への鶏肉輸入は、摂氏70度 で143分間の加熱処理が条件とされていることから、米国やタイなどの鶏肉輸出 国からは実質的に食用鶏肉の輸入を禁じた措置との強い非難を浴びている。なお、 豪州の検疫条件については、サケ輸入に対してカナダおよび米国が、一部チーズの 輸入に対してはスイスが、それぞれ世界貿易機関(WTO)に異議申し立てを、ま たりんご輸入についてはニュージーランドとの間で懸案となっている。
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