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【デンバー駐在員 藤野 哲也 5月20日発】かつて絶滅の危機にあると言われ ていたアメリカン・バイソンであるが、現在その頭数は20万頭を超えるまでに回 復している。その主な原動力は、商業目的である食肉への活用であるが、生産量の 増加から価格は低迷しており、USDAは今年、6百万ドルのバイソンひき肉の買 い上げを行う予定としている。 アメリカン・バイソン(通俗的にはバッファローとも言う。)は、18世紀およ び19世紀初頭にかけて約3千万頭から2億頭の幅で、平均的には、約6千万頭が 生息していたとされている。 その後、バイソンは、開拓者による乱獲により、19世紀後半にわずか5百頭程 度までに激減したとされている。しかし、絶滅の危機に瀕していたバイソンも、現 在では北米大陸に20万頭以上が生息しているものと見込まれている。バイソンの 生息頭数がここまで回復したのは、保護活動もその理由の一つに挙げられるが、何 と言っても、商業目的としての食肉への活用を図るバイソンの肥育牧場の存在にあ る。 夏ともなれば、バイソンなどの野性動物を見ようと、イエローストーン国立公園 (ワイオミング州)などに大勢の観光客が押し寄せているが、このような公共的な 保護地域におけるバイソンの頭数は、全体の1割に当たる2万頭にも満たない。 バイソン生産者は現在、飼養頭数の拡大を図るべく、すべての子雌を保留してお り、と畜に回されるのは、すべて成雄のみであると言われており、近年、その飼養 頭数は大幅に増加している。この背景には、バイソン肉が、牛肉、鶏肉と比較して 脂肪、コレステロールが少なく、消費者の健康志向に合った食肉であるとの期待が 広がっていることが挙げられる。ステーキやロースト用のバイソン肉はゲーム・ミ ート(狩猟肉)を取り扱うレストランやステーキハウスのメニューでよく見受けら れる。 一方、バイソン肉生産量の約3分の1を占めるとみられるひき肉は、その価格が 牛ひき肉に比べ倍以上と高い上に、赤身率が高いことから、調理するとパサパサに なってしまうため、人気は今一つであり、売れ残りが多いのが現状となっている。 このような状況を受けて、米農務省(USDA)は3月末、価格支持のため総額 6百万ドル(約7億円:1ドル=123円で換算)に及ぶバイソンひき肉の買い上 げを発表し、順次入札が開始されている。買い上げられたバイソンひき肉は、イン ディアン特別保留地および信託地区における食料供給プログラムなどの国内の食料 援助プログラムに用いられることとなっている。バイソン肉に関する正確な統計資 料はないが、今回の買い上げ数量は、年間ひき肉生産量の約4分の1に当たるもの と見込まれている。なお、USDAは、昨年も生産過剰となったバイソンひき肉2 50万ドル(約3億円)相当の買い上げを行っており、今回の措置は、これに続く 大規模なものとなっている。 USDAは、今回の買い上げ措置に関連して、需要に見合った生産調整を業界と して行う必要性があることを明確に示すものであり、バイソン肉を無期限に買い上 げすることはないとしている。 小規模生産者を中心として増加しつつあるバイソン肥育であるが、その成功のカ ギは生産拡大よりも今後の需要促進にかかっていると言える。
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