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【シドニー駐在員 野村 俊夫 11月11日発】豪州ビクトリア(VIC)州政 府は、11月9日、同州の飲用乳制度の撤廃についての是非を問う酪農生産者投票 を12月20日までに実施すると発表した。 豪州では、飲用向け生乳の生産者価格を規制する制度が州ごとに実施され、各州 の飲用乳価格は、加工原料乳価格の約2倍の高い水準に維持されている。 このため、連邦政府(自由・国民党連合)は、規制緩和政策に基づいて同制度の 撤廃を提案しているが、これは飲用向け生乳価格の引き下げにつながるため、生産 者に多大な影響を及ぼすとみられている。 一方、加工原料乳に対しては、定額の補てん金を支払う加工原料乳制度が実施さ れている。しかし、その支払額は長年にわたって徐々に引き下げられており、来年 6月末には完全に撤廃されることが既に決定されている。 豪州最大の酪農生産州であり、加工原料乳制度による恩恵を最も多く享受してき たVIC州は、これを機に自州の飲用乳制度を廃し、生乳の生産流通を完全に自由 化することにより、他州への影響力を強めようとしている。同州の飲用向け比率が 他州に比べて極めて低い(約8%)こともその立場を有利にしている。 このため、VIC州政府(自由・国民党連合)は、今年7月中旬、飲用乳制度の 撤廃を公約し、制度改革は順調に進むかにみえた。ところが、今年9月の州議会選 挙で与党が予想外の惨敗を喫し、野党(労働党)に政権を明け渡す結果となり、主 要な酪農生産地で多数の議席を失った。 これについては、前政権が経済合理化を急ぐあまり効率の悪い地方への投資を大 幅に削減したため、地方住民の反発を招いたことが主因と分析されている。 酪農に関して言えば、補償金と引き換えに自分達が切り捨てられるのではないか という、主に中小の酪農生産者を中心に不安と反発が高まったとみられている。 予想外の結果に慌てた連邦政府は、9月末、総額18億豪ドル(約1,260億 円:1豪ドル=70円)の大型酪農補償パッケージを急きょ発表した。また、連邦 上院の特別調査委員会も、飲用乳制度の撤廃はやむを得ないとの報告を発表したが、 対応が後手にまわった。 VIC州の新政権は、前政権による強引な制度改革を批判し、生産者による投票 を実施して意見を聴取すべきだと主張した。今回、決定された生産者投票は、この 公約に基づくものである。 しかし、新政権にも課題が山積みしている。選挙では生産者への補償が十分でな いと批判したが、連邦政府がこれ以上の補償上乗せに合意する可能性はほとんどな い。また、州独自の具体的な対策を用意しているわけでもない。仮に、連邦政府の 意向に背いて飲用乳制度を維持または延長した場合、18億豪ドルの補償パッケー ジはすべて御破算となり、来年6月末には、何の補償もなしに加工原料乳制度の撤 廃に直面せざるを得ないことになる。 新政権は、生産者投票の結果を酪農政策の参考にする(投票結果だけで政策決定 はしない)としているが、いずれにせよ、今後は非常に難しい政策のかじ取りを迫 られることになる。12月20日に締め切られる投票の結果と、新政権の対応ぶり が注目される。
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