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【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 11月11日発】タイ政府は、92年12月 3日からベータ・アゴニスト(通常、ぜんそくなどの処方薬として用いられる)を 飼料に添加すること、およびこれを含む飼料の輸入を禁止している。タイ畜産局は、 これに違反する養豚業者を摘発するなどにより、豚肉への薬品残留問題の解決に当 たっているものの、その効果が上がっていない現状となっている。また、製薬販売 業界では、ベータ・アゴニストに属するサルブタモールなども、飼料への添加を禁 止されているにもかかわらず、消費者にとって危険であるという科学的な証明がな されていないという理由で、その安全性の議論を繰り返し行っているとみられる。 このため、先般、ベータ・アゴニストを飼料に添加することの危険性を訴えるた めのセミナーが開催された。しかし、参加した製薬販売業者などにその危険性の認 識を改めさせるには、不十分な結果であった。 一方、98年のサルブタモールの国内販売額は、平均販売価格が1s当たり1万 バーツ(1バーツ=約2.8円)で、国内販売総額が500億バーツとなる大きな 市場となっている。製薬販売業者では、サルブタモールの販売から得られる大きな 利益の喪失を恐れ、養豚業者には、危険性についての科学的根拠が証明されていな いとの説明をいまだに続けているといわれている。また、この物質が残留する豚肉 を消費者が継続して摂取した場合、がんを誘発する可能性が高いという医師などの 忠告があるにもかかわらず、同販売業者はベータ・アゴニストの使用に関するあら ゆる規制の撤廃を働きかけるロビー活動を行っているとみられている。さらに、最 近、枝肉の色を改善する効果があるとされているベータ・アゴニストに属する新し い物質の登録準備を進めており、近く米国で承認される見込みという情報を開示し て、同販売業者は、タイにおいても、ベータ・アゴニストに属する物質の使用を禁 止すべきでないと政府に要請している。 なお、養豚業者がベータ・アゴニストを使用する理由としては、@赤身重量の割 合が5〜7%、生体重が2〜4s、それぞれ増加し、また、脂肪の割合が約2割減 少するなど、生産コストの節減および高歩留まりになること、A赤身肉の割合が高 い生体豚の価格が、通常のものと比べ1s当たり約2バーツ高く取り引きされるこ と、B養豚業者にとって、ベータ・アゴニストの入手が容易であることなどとなっ ている。また、養豚業者がサルブタモールを飼料へ添加する割合は、肥育の初期段 階が0.3%、出荷1ヵ月前もしくは生体重が60sに達した段階が0.8%とみ られている。 このような実態のため、最近タイでは、豚肉への残留物質が大きな問題となり、 消費者が豚肉を買い控え、消費が大きく減退している。 他方、99年1〜3月に輸入されたベータ・アゴニストの数量は、382トンと なっている。しかし、ぜんそくの薬として処方される数量は、年間わずか1トン未 満とみられ、残りの用途は不明となっている。 このため、食品薬品局は効果的な策として、これらを輸入する業者などの流通実 態を把握することで、飼料への添加を規制できるとして、その解明に全力を挙げて いる。
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