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豪州のインドネシア向け生体牛輸出に暗雲



【シドニー駐在員 藤島 博康 10月7日発】東ティモールに、豪州を中心とす
る多国籍軍が展開されて以来、インドネシア国内での豪州産農産物のボイコットが
懸念されている。豪州からインドネシア向けの生体牛輸出は97年後半のアジア経
済危機の影響で激減したものの、今年に入って回復傾向にあっただけに、業界関係
者には先行きに対する不安が広がっている。

 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によると、生体牛輸出に関して、これまで
に10件の船積みが、延期または中止されたとしている。MLAなどによると、こ
れは、東ティモール問題の情勢悪化から米ドルに対するルピア下落が原因であり、
単純に経済的な要因によるとしている。これまでのところ、インドネシア側の輸入
業者などに、豪州産生体牛をボイコットする動きは見られていない。

 豪州の生体牛輸出は、近年、東南アジア、中でもインドネシア向けを中心に増加
したものの、97年後半のアジア経済危機を背景としたインドネシア・ルピアの大
幅下落を契機に、98年の生体牛輸出頭数は合計で前年比42%減の51万1千頭、
インドネシア向けは前年の10分の1以下の約2万3千頭まで激減していた。

 しかし、今年に入って回復の兆しを見せ、99年1月から8月までのインドネシ
ア向け累計輸出頭数は、97年同期の30万9千頭には遠く及ばないものの、98
年同期の10倍以上となる3万5千頭までに回復していた。それだけに、インドネ
シア向け生体牛のほとんどを供給するクインズランド州やノーザンテリトリーの肉
牛生産者らの先行きに対する失望は大きい。

 また、豪州国営放送は、インドネシア政府がアイルランド産牛肉の買付けに調印
したと伝えた。MLAでは、これまでの両国間の長期的な交渉の結果であるとして、
政治的な背景を否定しているものの、牛肉業界に動揺を与えている。

 一方で、インドネシアの繊維業者、砂糖メーカーや製粉業者などは、豪州産品の
輸入停止を表明しており、豪州サイドの関係者に波紋が広がっている。現時点では、
実質的な影響は少ないとみられているが、インドネシア向けに年間250万トン弱
を輸出し、同国への最大供給元でもある小麦業界などには、事態が長期化した場合
には、米国やカナダなど他の輸出競合国に市場を奪われるとの懸念も強い。

 これまでの対インドネシア外交を否定し、西洋的な価値観を重視し「アジアの警
察官」としての役割を担うとするハワード首相の新安保政策は、国内外から批判を
浴びた。一方で、ハワード政権は、農産物輸出を促進すべく、豪州の「アジアのス
ーパーマーケット」化を戦略に推進している。ヴェイル貿易大臣らは政治的な緊張
とは切り離して、インドネシアとの貿易は続けられるべきだとしているが、「警察
官」に対する東南アジア諸国の風当たりは強く、今後の豪州の農産物輸出に微妙な
影響を与える可能性もありそうだ。


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