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WTO上級委、カナダの乳価制度を輸出補助金と裁定



【デンバー駐在員 樋口 英俊 10月21日発】世界貿易機関(WTO)上級委
員会は10月13日、米国およびニュージーランドの提訴を受けて争われてきたカ
ナダの乳価制度について、輸出補助金と認定し、WTO協定違反としたWTO紛争
処理小委員会(パネル)の判断を支持する旨の裁定を下した。

 カナダ政府は95年に、乳価分類の見直しを行い、国内向けに加えて、輸出向け
のスペシャルクラスを設定し、実質的な二重価格制度を導入した。この制度の下で
乳業者は、国内向けに比べて輸出向け生乳には安い乳代を支払うことから、同制度
は実質的に輸出補助金に相当し、輸出補助金に係るWTO協定に違反するとして、
米通商代表部(USTR)は、米国乳業界の陳情も受けて、WTO提訴に踏み切っ
た。米国側は、この制度が輸出補助金に相当すれば、カナダがWTOに譲許した輸
出補助金の上限を過去3年間で1億6千万ドル(約171億円:1ドル=107円)
超過していると主張した。

 WTO提訴後、米・加間の2国間協議を経て、パネルが設置され、99年3月に
は米国の主張を認める裁定が下されたが、カナダ側は7月15日、裁定結果を不服
として上級委員会へ控訴していた。なお、乳製品の主要輸出国であるニュージーラ
ンドも、米国に同調して提訴に加わっている。

 一方、もう1つの争点であったカナダの飲用牛乳の関税割当について、WTO上
級委員会では、対象をカナダ入国の際の個人消費用の持ち込みに限定している現行
制度を認める判断を下し、WTO協定違反とするパネルの裁定を退けた。

 カナダの飲用牛乳の輸入については、ガット・ウルグアイラウンド合意の市場ア
クセスの一環として、6万4千5百トンの関税割当が設定されたが、対象が制限さ
れていることにつき、米国はWTO協定違反と主張し、パネルもこれを支持する判
断を下していた。

 なお、WTO上級委員会は、個人消費用として持ち込める飲用牛乳の価格制限
(1回につき20カナダドル(約1,460円:1カナダドル=73円))につい
ては、これをWTO協定違反とするパネル裁定を支持する決定を下した。

 今回の裁定結果について、バシェフスキー米通商代表は、WTO協定の履行義務
を回避しようとする行為は、認められないということを明確に示したものと称賛し
た。また、今回示された輸出補助金に関する規律が、間近に控えた新ラウンドの輸
出補助金削減交渉に当たって重要な基準を与えてくれたと語った。

 一方、カナダのヴァンクリフ農業・食料相は、飲用牛乳の関税割当制度における
制限が認められたことは、我々の努力が実を結んだためと喜びを表した。同大臣は、
乳価制度が輸出補助金とされた件では、今後調整する必要があるが、カナダの生乳
供給管理システム自体は、今後も強固なまま存続するとしている。

 カナダは、裁定後60日以内に裁定の実施に関する意思をWTOへ通報すること
とされており、今後政府、業界関係者などで政策の調整方法についての協議が予定
されている。


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