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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 4月6日発】タイでは、乳幼児用粉ミルクの 輸入関税率を、5%から1%に引き下げるという大蔵省の提案などに酪農家が強く 反発したことから、閣議が空転する状況が続いている。 こうした中、政府の肝いりで、タイでは初の乳幼児用粉ミルク製造工場の建設が 計画されるなど、新たな酪農振興対策が始まりつつある。 タイ酪農業協同組合はこのほど、タイ中部に位置するロッブリー県に6億バーツ (約17億円:1バーツ=約2.9円)を投じ、年間処理能力3万トン規模の乳幼 児用粉ミルク製造工場の建設を発表した。 農業協同組合省から提案されたこのプロジェクトは、既に閣議で了承されており、 政府も輸入品に代わる国産品を育成する酪農振興の一環として、この事業を支援す る立場を表明している。タイ酪農業協同組合としても、増加傾向にある生乳の売却 先が長期的および安定的に確保されることから、農業協同組合省案を評価しており、 今後の余乳処理対策の目玉として大いに期待されるところとなっている。 なお、本工場の1日当たりの生乳処理量は2百トンで、1日当たり20〜25ト ンの粉ミルクを製造する計画となっている。 タイでは現在、酪農家戸数が増加しており、その数は今後10年間で15〜20 %上昇すると予測されている。それに伴い、生乳生産も年間1百万トン増加すると 試算されている。 一方、タイが輸入する乳幼児粉ミルクは年間1百億バーツ(約290億円)に上 っているが、当該製品の価格動向を勘案すると、輸入額はますます増加していくと 試算されている。また、従来、余乳処理対策には年間1百万バーツ(約290万円) 以上が費やされてきたが、本工場が稼働すれば、これらの予算を削減できるメリッ トも大きいと考えられている。 タイでは、各学校が夏季休暇に入る期間、1日当たり2百トンの余剰生乳を生じ、 これが深刻な供給過剰を引き起こす大きな要因となっている。昨年の余乳処理対策 としては7百万バーツ(約2千万円)が投じられ、余剰生乳の買い上げやUHT牛 乳(室温流通)製造に充てられたとされているが、流通システムの変更などが足か せとなり期待されたほどの成果は得られなかったと伝えられている。 今回の余乳処理施設に対して、一方では多額の費用をかけ過ぎているとの批判も 出ているが、一般的には、消費者に国産品と輸入品に対する選択の余地を与えたこ とや、生乳が余剰である一方で乳製品は不足しており、その不均衡を是正する機能 について高い評価が与えられているようである。 このように、余乳問題はタイの酪農政策にとって長年の課題となってきただけに、 今回の余乳処理施設の動向には、業界から熱い期待が寄せられている。
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