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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 4月20日発】フィリピンでは、豪州からの 肥育用生体牛の輸入禁止措置をめぐって、畜産・飼料業界に大きな波紋が広がって いる。 フィリピン農業省は先ごろ、豪州が衛生上の観点からフィリピン産果物の輸入を 阻んでいるとし、その報復として、肥育用生体牛をはじめとする豪州産農産物の輸 入禁止措置を発動した。 豪州が輸入を拒んでいるフィリピン産の果物はバナナおよびパイナップルで、保 存料として使用されている安息香酸の含有率が高濃度であることを理由としている。 これに対し、フィリピンのアンガラ農業長官は、豪州の対応の遅さを指摘すると ともに、衛生上の不都合に問題点を転嫁し、事態の解決を先送りにしているだけだ として、遺憾の意を表明している。 こうした中、フィリピンでは、農業省の豪州産農産物の輸入禁止勧告を受けた国 内最大級の生体牛輸入業者が、今後は飼料となるトウモロコシを契約農家から購入 しないことを明らかにした。これに対し、ミンダナオ島のトウモロコシ生産者団体 は、このまま政府の豪州産生体牛の輸入禁止措置が続けば、年間で6,640万ペ ソ(約1千9百万円:1ペソ=約2.8円)の損失を受けることになるとして、人 道的な見地から同措置の解除を求めた陳情書を同長官に提出した。同団体によれば、 生体牛輸入業者との契約を継続するため、農家はトウモロコシの作付けを終えた直 後であり、これまで1日当たり80トンのトウモロコシを納入していた。 しかしながら、農業省スポークスマンは、豪州がフィリピン産農産物の輸入規制 を解除しない限り、豪州産生体牛の輸入再開の手だてはないとして、豪州政府に対 しフィリピン産果物の輸出申請を受理するよう求めている。また、これらの果物の 輸入を妨げている衛生問題を解決するためのタイムスケジュールの提示も、併せて 要求している。 一方、在フィリピン豪州大使館は、そうした農業省の強い態度を軟化させるべく、 大蔵省や運輸省などの関係省庁に農業省への便宜を図るよう働きかけたと伝えられ るが、現在までのところ事態の収拾には至っていない。 なお、農業省は、今回のトウモロコシ農家の陳情騒ぎは、生体牛輸入再開を目論 んだ輸入業者がトウモロコシ農家に圧力をかけたために生じたものとして、同輸入 業者に対し言動を慎むよう指導するとともに、生体牛の輸入先をニュージーランド、 米国、欧州などへ振り向けることを提案している。 豪州にとって、東南アジアは生体牛の輸出先として最も重要な地域であったが、 97年後半に勃発した東南アジア地域の経済危機以降、同地域向け輸出は低迷を続 けていた。経済回復が進むにつれて同地域向け輸出は好転の兆しを見せているが、 そのけん引役をフィリピンが担ってきただけに、豪州にとっても今回の問題の影響 は大きく、両国の今後の対応が注目される。
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