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タイ最大手の畜産企業、新規畜種導入の取り組み



【シンガポール駐在員 宮本 敏行 8月24日発】タイ最大手の畜産総合企業で
あるチャロン・ポカパン社(CP)は、国全体が今なお経済不況からの回復過程に
ある中で堅実に業績を伸ばしている。今年の総売上高は前年比5.8%増の520億バー
ツ(約1,404億円:1バーツ=約2.7円)が見込まれ、今年上半期だけでも16億バー
ツ(約43億円)の純利益を計上するなど、名実ともにタイ畜産業界をけん引する旗
頭である。

 CPはこのほど、食肉輸出の主力である鶏肉が、日本などの主要輸出市場におい
て、中国やブラジルといった新興輸出国との競合の中で、苦戦を強いられる状況が
続いていることを憂慮し、新たな食肉の輸出開拓を図るため山羊など新たな畜種の
導入に着手した。

 CPによると、手始めに南アフリカ共和国から雄5頭を含む50頭の肉用品種の山
羊が導入された。産肉性が良く歩留りは体重の45〜60%、生後1年で成熟し、10〜
12年間は繁殖可能という。繁殖雌は年間に4〜6頭の子山羊を出産する。生体の山
羊は1kg当たり60〜70バーツ(約162〜189円)で取引されるが、山羊肉は150〜200
バーツ(約405〜540円)となり、80バーツ(約216円)で取引される豚肉より有利
とされる。事業定着までに2年間を見込み、その間にタイの気候風土に適応する能
力や飼料の嗜好性のチェックを行うという。さらにCPは、山羊の飼養がタイの農
民にとって主要な畜産業種の選択肢の1つになり得るとし、「畜産業界の将来に大
きく貢献するCP」というイメージアップも怠っていない。

 また、CPは、山羊産業の育成を将来的には輸出に結び付けたい考えだ。輸出先
としては、マレーシアをはじめとする近隣のイスラム諸国を念頭に置くとしている。
タイからマレーシアへの冷凍鶏肉輸出は、マレーシアの鶏肉需給方針の転換から減
少の一途をたどっており、今年上半期の輸出は前年同期比39.4%減の1,585トンに
とどまっている。こうしたことから、CPとしては鶏肉部門で失った輸出シェアを
山羊肉などで挽回したい意図があるものと思われる。

 一方、CPはこれに先立ち、年初からダチョウの繁殖および生産にも着手してい
る。CPは7戸の契約農家に60〜70羽のひなの飼養を委託しており、手数料として
月5千バーツ(約1万3,500円)を支払うほか、飼料や獣医師派遣の手当てを行っ
ている。CPは、現在2ヵ所のと鳥加工場を持っており、今年は1,200羽、来年は
その2倍のと鳥を見込んでいる。ダチョウ肉は、初めのうちは国内に仕向けること
とし、将来的には輸出市場も開拓していく方針だが、現在、ダチョウ肉は1kg当た
り500バーツ(約1,350円)と高価であるため、事業の拡大には徹底的なコスト削減
と国内での普及がカギになるとしている。

 新たな畜種の導入は、将来性が未知数なだけにリスクも大きい。しかし、CPの
試みが成功すれば、農家の所得向上に大きく貢献することになり、経済好転への波
及効果も期待できよう。タイでこれらの新たな畜種がどのように受け入れられてい
くのか、その推移を見守りたい。


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