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成長が持続するフィリピン畜産業


【シンガポール 宮本 敏行 11月30日発】フィリピン農業省農業統計局はこの
ほど、今年1〜9月の農業生産額を公表した。これによると、農業全体では1,771
億ペソ(約4,250億円:1ペソ=2.4円)となり、前年同期比で3.5%増加した。第
3四半期単独の伸び率は5.5%で、今年前半からの好調が持続している。

 分野別に見ると、鶏肉部門が前年比6.2%増の256億ペソ(約614億円)、鶏肉を
除く他の畜産部門が同2.8%増の254億ペソ(約610億円)となっており、鶏肉部門
がかなりの増加を見せてその他の畜産全体と肩を並べた。農業省は、これら畜産分
野が伸長した理由として、安価な米国産鶏肉の輸入を抑制する努力が奏功したこと
や、養豚部門で収支の改善が図られたことを挙げている。

 一方、フィリピン農業の基幹をなす米やトウモロコシをはじめとする穀物分野
は、前年同期比3.6%増の897億ペソ(約2,153億円)、また、水産分野は同2.0%
増の357億ペソ(約857億円)と、ともに増加しており、アンガラ農業長官は、こ
れらの分野が一様に伸びを示したことを高く評価している。

 フィリピンは、将来の農畜産業の姿を見据えた中期的な発展計画を定めており、
年率2.7〜3.4%の伸びを目標としている。農業省では、年間の農業生産額の3割
以上を占める第4四半期の伸び率について、年末需要の盛り上がりから今年は3
%以上の成長が見込めるとしている。また、今回の調査で、第1〜3四半期を通
して3.5%の成長が達成されたことから、通年でも発展計画の目標値を上回る3.0
〜3.5%の成長は確実とみている。なお、ある民間の調査機関は、年末に向けた
畜産物の需要増が原動力となり、4.5%もの増加が期待できるとの強気の試算結果
を発表している。

 こうした農畜産業の成長は、経済危機後の同国の経済活動を活性化させる役割
を担いつつある。第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は予想(4.0%)を上
回る4.8%となり、多くのエコノミストがこれに対する農畜産業の貢献に言及して
いる。

 しかし、懸念材料が全く存在しないわけではない。現在、既に農家販売価格の
低下や失業率の上昇などが見られていることから、第4四半期以降の経済は減速
するとの見解を示すアナリストもいる。同国は今年、通年4%のGDP成長率を
目標に掲げているが、これを危ぶむ声も根強い。また、需要の減退が見込まれる
ことから、畜産農家は飼養頭数を減らすなど経営活動の後退を強いられ、来年の
畜産業の生産に悪影響が及ぼされるとみる向きもある。

 フィリピンでは現在、大統領の罷免問題が社会に暗い影を落とし、政局は混迷
の色を深めている。これに呼応してペソの下落も一段と進んでおり、将来の経済
の安定を楽観視できる状況にはない。アンガラ農業長官は、2001年の農畜産業の
成長率を、干ばつの被害などマイナス要因も織り込んで本年予測よりやや低い2.
5〜3.2%としているが、その達成には早くも疑問が投げられている。



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