ALIC/WEEKLY
【シドニー駐在員事務所】野村 俊夫、幸田 太 1.酪農乳業制度改革を実施(豪州) 豪州では7月1日から、連邦政府による酪農生産者への大規模な補償措置と引き 換えに、加工原料乳への価格差補てんと、飲用向け生乳への最低価格設定および生 産割当の両制度が同時に撤廃され、生乳の生産・取引が完全に自由化された。これ により飲用向け乳価が大幅に低下したため、ニューサウスウェールズ(NSW)州 やクィンズランド(QLD)州などの飲用乳供給州では多数の生産者が経営困難に 陥り、廃業者が続出するなどの深刻な影響が現れた。 2.メガコープの設立計画が挫折(NZ) ニュージーランド(NZ)では、現存する酪農組合(乳業メーカー)の大部分が 合併して1つの巨大乳業メーカー(通称メガコープ)を設立する計画が進められて いたが、3月24日、2大酪農組合間の合併交渉が相互の資産評価等をめぐって最終 的に決裂し、当該計画は事実上挫折した。これにより既存の酪農組合とNZデイリ ーボードによる現体制が当面維持されることになったが、業界内にはメガコープの 設立を望む意見が依然として強く、その動向が注目されている。 3.豪州ドルが史上最安値を更新、畜産物輸出に追い風 豪州ドルは今年に入ってから一貫して安値基調で推移していたが、11月には対米 ドルで51セント台という史上最安値を記録した。この豪ドル安は肉牛・牛肉や乳製 品などの輸出産業にとっては強力な追い風となり、豪州農業資源経済局(ABAR E)の調査で肉牛生産者の経営収支が15年ぶりに黒字に転換する(99/2000年度) などの効果をもたらしたが、その反面、ガソリンなどの輸入資材価格が大幅に上昇 して農業経営に影響を及ぼした。 4.中国との貿易協定に調印(豪州) 豪州連邦政府のベール貿易相と石広生・中国対外貿易経済協力相は5月22日、北 京において豪州・中国2国間貿易協定に調印した。これは、中国の世界貿易機関 (WTO)加盟を念頭においた協定であり、豪州にとっては長年の懸案に対する大 きな前進となった。今回の協定には牛肉や乳製品など農畜産物の輸入関税の大幅な 引下げも含まれており、長期的な対中国輸出の拡大が期待されている。 5.豚肉業界が新団体の設立を決定(豪州) 豪州豚肉生産者協議会(PCA)は3月、政府系の豪州豚肉公社(APC)およ び豚肉研究開発公社(PRDC)と統合し、産業中核団体としてポーク・オースト ラリア(PAL)を設立することを決定した。12月には関連法案も成立し、2001年 4月から新団体が正式に発足する運びとなった。豪州の豚肉業界は、近年、安全・ クリーンなイメージの下でシンガポールや日本への輸出を増加させており、新団体 の設立でさらなる発展が期待されている。 6.オセアニアで乳業再編が急展開 豪州では飲用向け生乳取引の完全自由化に伴い、大手飲用乳メーカー3社がし烈 なシェア争いを展開しているが、同時に、圧倒的な市場支配力を持つ大手スーパー チェーンに対抗するべく、相互の合併をめぐる交渉も開始された。これに、ビクト リア(VIC)州の大手乳製品メーカーの経営再建問題や、メガコープ設立に挫折 したNZのメーカーとNZデイリーボードの豪州進出の動きなどが複雑に絡み合い、 オセアニアではタスマニア海を越えた乳業再編が急速に展開されつつある。 7.塩害対策に15億ドルを投入(豪州) 豪州連邦政府は10月10日、農業牧畜などの分野で深刻化している塩害への対策と して、今後7年間に総額15億豪ドル(約900億円:1豪ドル=60円)を投入する計 画を発表した。この計画は、塩害地域の拡大阻止、水質の改善、塩耐性作物の開発、 塩害抑制技術の開発などを具体的な目標として挙げているが、水利用制限の強化、 土地所有権と水利権の分離、水利用価格体系の確立など、水利政策の基本的な見直 しにも言及しており、牧畜産業にも大きな影響を及ぼすとみられるため、注目され ている。 8.GSTを導入、畜産分野にも波紋(豪州) 豪州では7月1日から10%の物品サービス税(GST)が初めて導入され、社会 全体に大きな影響を及ぼしたが、低所得層に配慮した連邦政府が基礎的食料品や医 療・教育サービスなどを免税としたため、課税・免税の範囲をめぐって導入直前ま で紛糾が続いた。畜産分野では、当初、非可食部分を含む肉牛生体は課税、基礎的 食料品に該当する枝肉は免税とされたが、肉牛を生体販売するか枝肉販売するかに よって納税額が異なる点が問題となり、最終的には双方が課税対象とされた。 9.豪州・NZ食品基準の全面改訂を決定 豪州・NZの連邦・各州の食品衛生担当閣僚で構成する食品基準会議(ANZF SC)は、11月24日、両国共通の食品基準(Food Standard Code)を全面改訂する ことを決定した。これは、近年の多様な食品群に対応するべく従来の基準を抜本的 に見直したものであるが、その内容は食品安全に関する基本的な事項(表示義務な ど)、食品の定義分類、製造流通の基準などを含む包括的な体系となっており、20 02年からの施行が予定されている。 10.シドニー五輪、豪州産農畜産物を強力にアピール 豪州では9月、シドニー五輪が開催され、世界各国から競技・報道関係者や観光 客など550万人を超える人々が訪れたが、農畜産業関係者はこれを機に積極的な豪 州産農畜産物プロモーションを展開した。五輪開催に合わせて、キャンベラでは農 業ジャーナリスト協会が世界大会を開催し、シドニーではオーストレード(貿易促 進公社)が農畜産物貿易関係者を対象とした盛大な交流パーティを開催するなど、 豪州産農畜産物の味覚と安全性を世界に向けて強力にアピールした。
元のページに戻る