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【ブラッセル駐在員 井田 俊二 2月10日発】EU委員会は、2月2日、安全 性について科学的な確証が得られていない食品に関する対策のガイドラインを公表 した。これによると、食品の安全性に関する科学的証拠が不十分、不明確またはま だ結論に達していない場合、その結果を待たずに予防的措置を講じられるとする原 則(予防原則、Precautionary Principle)を明確化し、これに基づく統一的な 基準を示している。 これまで、EUでは人や動植物の健康等に関してこの原則を適用する規定がない ため、食品の安全性に関する問題については、個別のケースに応じた対策が講じら れてきた。このガイドラインは、人や動植物の健康等だけでなく環境保護の分野を 含めて、統一的な対策をいつ、どのように講じるかという指針を示している。 この原則に基づく対策を講じる場合に必要なポイントは、次の通りとしている。 ・危険性の度合いに応じた保護水準の対策を適用すること ・特定の食品に対して差別的な対策を適用しないこと ・これまで行ってきた対策との整合性に配慮すること ・対策を講じた場合と講じない場合の費用対効果の検討をすること(実行可能性、 経済的費用・効果の分析等を含む) ・新たな科学的データに対応した対策の見直しなどをすること EUでは、この原則が農産物の保護貿易主義の隠れみのではないと主張するとと もに、世界貿易機関(WTO)加盟国は、この原則に基づく対策を採る権利を有し ており自由貿易の精神に反していないと主張している。 このガイドラインは、法的な拘束力はないが、今後のEUの食品安全対策に関し て少なからず影響を及ぼすものとみられている。 EUでは、これまでも、この原則に基づき食品の安全性に関する対策が講じられ てきた。 成長ホルモンを投与した牛肉の輸入禁止措置、乳牛におけるBST使用禁止措置 および遺伝子組み換え食品に関する新規認定の凍結措置等は、いずれもその安全性 に関する科学的証拠が不十分、不明確またはまだ結論に達していないと位置付けて おり、消費者保護・動物愛護の立場から対策を講じている。この結果、危険性が証 明されない限り、原則的に輸入を認めるべきであると主張する米国等と意見が真っ 向から対立している。 このため、今後両者の見解がどのように調整されるか注目される。 なお、今回の公表は、2000年1月にEU委員会で公表した「食品の安全性に 関する白書」および2月に採択された遺伝子組み換え生物の国際取引きを規制する 「バイオ安全議定書」のフォローアップと位置付けられている。
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