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【シドニー駐在員 野村 俊夫 2月10日発】豪州では、本年7月1日から、日 本の消費税に該当する10%の物品・サービス税(GST)が導入される(輸出向 け産品は非課税)。このGST導入を含む税制改革は、昨年の総選挙における争点 となったが、現政府(ハワード首相)がかろうじて選挙に勝利した結果、多くの修 正を受けながらも議会を通過した。 政府は、GST導入と引き換えに、それまで多くの個別品目に課せられていた国 内卸売税を大幅に引き下げることにより、物価上昇を抑制すると確約した。 しかし、GST導入が低所得層など社会的弱者への負担を増加すると批判する野 党側は、税制改革法案の審議の過程で、食料品や医薬品、地方自治体の公共サービ スなど、多くの項目を非課税とすることを政府に認めさせた。 ところが、これらの非課税項目の範囲や定義については充分な審議が行われてお らず、導入まで4ヵ月余りに迫った現在もなお、多くの分野で与野党の白熱した議 論が続けられている。 先日の国会審議では、肉牛生産者が肉牛を販売する際にGSTを課税すべきかど うかが問題となった。税務当局は、肉牛の段階では食用として認定された訳ではな く、また、食肉以外にも非食用の副産物が多く含まれているため、非課税扱いの食 料品には該当しないという見解を発表した。 これに対し、野党側は、当初、激しく反発したが、当の肉牛生産者側から課税や むなしの意見が上がったため、議論はしりすぼみとなった。 肉牛生産者が課税容認に傾いた理由は、肉牛販売代金が課税対象になれば、生産 者の手取りが単純に10%増加するからである。この10%分は、その後、確定申 告の際に生産者が納税することになるが、この間(通常2〜3ヵ月)、貴重なキャ ッシュ・フローとして活用できることになる。 これに対し、家畜市場や家畜商(エージェント)、フィードロットなど、肉牛を 購入する側は、生産者とは逆に、一定期間、キャッシュ・フローがマイナスになる ため、一斉に反対していた。 ただし、生産者が肉牛を生体として販売するのではなく、と畜・衛生検査後に食 肉(枝肉)として販売する場合には、食料品として非課税になる。これについて、 税務当局は、枝肉の所有権の移転が食用として認定される前か後かで区分するとし ているが、書類上の手続きによって左右されることになるのは間違いないようだ。 このため、大手パッカーは、生産者との直接取引きでGSTが課税されないよう、 契約内容の見直しを進めている。さらに、今後は、非課税取引きの割合を高めるた め、直接取引きに応じる生産者に、より魅力的な価格を提示するとみられている。 その場合、家畜市場や家畜商は、キャッシュ・フローが減少し、取引きが縮小す るという厳しい状況に追い込まれることになるため、GST導入は肉牛業界の構造 変化につながるとの見方もなされている。 7月に迫ったGST導入に向けて、各分野で、解決すべき課題がまだ多く残され ていると言えそうだ。
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