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【シドニー駐在員 野村 俊夫 2月24日発】豪州連邦政府は、加工原料乳の価 格補てん制度と飲用向け生乳の価格支持制度を、今年6月末をもって撤廃する準備 を進めているが、2月16日、両制度の撤廃に伴う酪農生産者の収入低下を補うべ く、すべての酪農生産者に補償金を支払うという酪農改革法案を国会に上程した。 上程された法案の中身は、両制度の撤廃を条件に、今後8年間、加工乳を含む飲 用乳に対し11豪セント(約7.7円:1豪ドル=70円)/リットルの課徴金を 卸売段階で賦課し、これを財源に、すべての酪農生産者に対して、98/99年度 の生産実績に基づき、加工原料乳については8.96豪セント(約6.3円)/リッ トル、飲用向け生乳については46.23豪セント(約32.4円)/リットルの補 償金を一律に支払うというもので、既に公表された改革案に沿ったものとなってい る。 なお、この改革に要する補償総額は、別途用意された酪農廃業者への廃業補償を 含めると17億4千万豪ドル(約1,218億円)に達し、単独の産業分野に対す る支援政策としては豪州史上最大規模とされている。 しかし、当該法案の成立、施行に向けては、まだ少なくとも2つの関門が残され ている。 第1は、議会における野党の合意取り付けである。最大野党の労働党は、政府補 償案に一定の理解を示しているが、特に上院でキャスティング・ボートを握る民主 党は、飲用乳課徴金を消費者のみに負担させるのは不公平だとし、政府財源の支出 による補償の上乗せを求めて与党に揺さ振りをかけている。 第2は、補償案実施の前提とされている各州での飲用乳制度の撤廃である。飲用 乳制度は州政府の管轄であるため、各州の議会で撤廃を決議しなければならないが、 現時点では具体的な撤廃法案が上程された州は1つもない。 ただし、最大酪農生産州のビクトリア州では生産者投票で全体の89%が撤廃を 支持したほか、最も注目されたニューサウスウェールズ州でも、先月実施された生 産者投票で全体の65%が撤廃やむなしとの賛成票を投じた。両州ではこれらの結 果に基づいて州議会に上程する法案が準備されつつあり、他の州もいずれこれに追 随するとみられている。 政府は、補償金受給資格の審査や、実際の補償金支払いを管理監督する酪農調整 機関(DAA)を法律に基づいて設立するとしており、この立ち上げ作業も改革法 案審議と並行して行われている。 現在のところ、改革実施に経過期間を設けることは検討されておらず、今年7月 からの完全自由化が唯一の案とされているため、生産者の関心は7月以降の乳価の 動向とこれに向けた飲用乳業界の再編に集中している。 こうした中、豪州の3大飲用乳メーカーの1つであるナショナルフーズ社は、昨 日、新たに4万トンの飲用向け生乳を加工原料乳地帯のビクトリア州から調達する 計画を公表した。 豪州の酪農改革は、まだ幾多の不確定要素があるものの、実現に向けて着々と具 体化が進められていると言えよう。
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