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生乳の買い控えにより、タイの酪農家が窮地に



【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 2月24日発】タイのスラブリ県で営農する
生乳生産者は、牛乳製造業者が生産者から生乳の買い取りを拒否しているために、
約1千トンの生乳が無駄となり、約1千2百万バーツ(1バーツ=約3.0円)の
損失を被ったとして、商務大臣に救済を求めている。

 牛乳製造業者は、1s当たり約10バーツの輸入脱脂粉乳もしくは全脂粉乳を原
料として製造したUHT牛乳(室温流通)の生産コストが、1s当たり約8バーツ
であるのに対し、国産生乳を使用して製造した牛乳の生産コストは、約30バーツ
にもなるとしている。

 また、同業者は、低迷する牛乳・乳製品の消費を回復させるには、価格の安い製
品を消費者に提供することが必要であるため、安価な輸入粉乳に傾斜せざるを得な
いとしている。

 タイの年間1人当たりの牛乳消費量(生乳換算)は、これまでの順調な経済の発
展に伴い飛躍的に拡大し、96年には28.5kgとなった。しかし、97年の通貨
危機以降は、経済の停滞による収入の減少、国産生乳最低取引価格の引き上げによ
る牛乳の値上がりなどの影響を受けて、需要の低下した状況が続き、98年には同
消費量が15.6sと大きく減少した。また、脱脂粉乳の関税割当枠は、99年が
98年に比べ約2万トン削減され68,500トンに、2000年が99年に比べ
12,900トン削減されて55,600トンとなっている。

 生産者は、国産生乳が余剰となっている原因として、@脱脂粉乳などは、世界貿
易機関(WTO)協定に基づき、関税割当量が2004年まで決められているのに
対し、全脂粉乳については、WTO協定の品目に含まれていないため、事実上輸入
数量に制限がないこと、A脱脂粉乳などの割当数量を超える部分については、20
0%超の税率が適用されるのに対し、全脂粉乳の輸入関税は5%と低率になってい
ること、B全脂粉乳の輸入量は、例年1万トン程度であったのに対し、99年には
約4万トンと急増したこと、CEUから安価で輸入された全脂粉乳が市場に増加し、
その価格をさらに引き下げていることなどを挙げている。

 このため、生産者は同大臣に5%の全脂粉乳の輸入関税率を、19%に引き上げ
るよう強く求めている。

 一方、46万トン(98年)の生乳生産量のうち、酪農振興公社(DFPO)が
生産者から買い入れ可能な数量は、工場の処理能力から約7万トンとなっている。
しかし、DFPOは、全国の学校に教育資材を供給する約300の代理店を有する
国営のクルサパ産業機構と協力して、国産生乳を使用したDFPOの学校給食用牛
乳を全国の学校に供給することで、国産生乳の余剰をいくらか解消できるとしてい
る。


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