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波乱含みの新年度がスタート(豪州)



【シドニー駐在員 野村 俊夫 7月6日発】豪州では、7月1日から新会計年度
がスタートしたが、これに当たり最も注目されたのは、何と言っても初の10%物品
・サービス税(GST)導入を含む連邦税制改革の実施であった。

 ハワード連邦政府首相は、GST導入と併せて個人所得税減税、法人税改革、物
品卸売税(WST)の減免を実施することで国家の税収バランスを是正し、豪州産
業全体の国際競争力を将来にわたって維持すると述べ、国民の理解と協力を求めた。
これに対し、特に中間所得層以下の一般市民の間には、国家経済発展のための犠牲
にされたとの意識が強く、6月末にクリスマス並みの駆け込みショッピングを繰り
広げ、7月以降は諸物価の動向に神経をとがらせている。

 一方、農業分野では、税制改革により、輸送コストの削減など約9億豪ドル(57
6億円:1豪ドル=約64円)の経済効果が見込まれている。しかし、GST非課税と
された輸出農産物や国内基礎食品などが実際は関連サービスコスト上昇の影響を受
け、また、燃料卸売税の減免も小売価格に反映されないなど政府のもくろみが外れ
たことも多く、農業全体に及ぼす中長期的な影響は依然として不透明な部分が多い。

 さらに、酪農分野では、連邦政府による生産者への補償金支払いと引き換えに、
70年以上にわたって実施されてきた各州の飲用向け生乳の流通価格規制を完全に撤
廃するという大改革がスタートした。これは、飲用向け生乳の流通販売を自由化す
ることによって国内酪農保護の地域的なアンバランスを是正すると同時に、長期的
な視野に立って酪農産業全体の国際競争力を高めることを目的としたものである。

 自由化によって最大の影響を受けるニューサウスウェールズ(NSW)州では、
関連法案の審議をめぐって州議会が年度末ぎりぎりまで紛糾したが、6月29日の夜
半、カーNSW州政府首相が州内酪農生産者への影響を監視する特別委員会を設置
するという妥協案を提示してようやく収拾させた。

 この結果、全州の飲用乳規制の撤廃という条件が整ったため、単独の産業分野に
対する施策としては豪州史上最大規模とされる総額17億8千万ドル(1,140億円)の
補償パッケージの実施が確定した。

 現在までのところ、自由化後の飲用向け生乳の取引は各州ともに事前に予測され
た価格帯で行われていると報じられており、大きな混乱は生じていない。ただし、
生産・地理的条件から飲用向け割合が高いNSW州やクインズランド州では、平均
生産者乳価の大幅な低下が避けられないことから、たとえ大規模な補償政策をもっ
てしても、今後1〜2年の間に大量の廃業酪農家が生じるとみられている。

  以上の諸改革は、いずれもその影響が明確に現れるまでには相当の期間を要する
と言われており、今後の動向が注目される。


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