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学乳事業をめぐる論争が加熱(タイ)



【シンガポール駐在員 宮本 敏行 7月6日発】タイでは、児童の栄養向上およ
び酪農業の振興を目的に、92年から学乳事業が行われている。本年は70億バーツ
(約196億円:1バーツ=約2.8円)の予算措置がとられ、3万を超える小学校を対
象に行われているが、本事業の運営に異議を唱える声が大きくなりつつある。

 今年の学乳事業の実施に当たり、政府は余乳対策も考慮して、タイ酪農振興公社
(DFPO)など国産生乳の購入に大きく貢献する乳業会社から、一定量の学乳用
UHT牛乳(日本のLL牛乳に相当)を購入する措置を発表していた。しかしこの
ほど、全国教師連合協議会や低温殺菌牛乳製造者団体などから政府に対し、この措
置はDFPOなど特定の乳業会社を利するものであるとして、同措置の取り消しを
求めた請願書が提出された。タイ北部地域では教育大臣の罷免を求め、児童やその
父母など5万人の署名を集める運動にまで騒ぎが拡大している。

 現在、学乳におけるUHT牛乳の割合は約4割とされ、取り扱いや保存の容易さ
から、各学校はUHT牛乳を選択する傾向が強まっているという。政府は今年、大
手乳業会社から合計9千万パックのUHT牛乳の購入計画を発表していることから、
この傾向に一層拍車がかかることも考えられる。なお、本計画ではDFPOに牛乳
売上高第1位のフォアモースト社を上回る2千4百万パックのUHT牛乳の納入割
当が与えられている。

 政府は学乳事業の導入に当たり、国産生乳の需給状況などを考慮して、本事業に
おける生乳の使用割合を25%以上と規定したが、残りの部分については、その調達
方法に言及していない。したがって、乳業会社はコスト削減のため輸入品の全脂粉
乳や脱脂粉乳からUHT牛乳を製造して学乳用とすることが多く、皮肉にも余乳対
策の一環たる学乳事業が逆に余乳を生じさせる大きな要因の1つとなってしまって
いる。酪農家からの最低買取価格が1リットル当たり12.5バーツ(約3.5円)と定
められている生乳に対し、輸入粉乳類から製造される還元乳の製造コストは8バー
ツ(約22円)とされ、タイで年間に消費される70万トンの牛乳のうち、30万トンが
輸入粉乳類から製造された還元乳と試算されている。こうしたことから、各学校が
夏期休暇に入る3〜4月には、1日当たりの余乳が200トンにも上るとされ、酪農
家からも学乳事業の運営に強い疑問の声が投げかけられていた。 

 一方、政府には、DFPOを学乳事業に取り込むことで、経営が行き詰まり民間
への売却も考慮されている同公社の負担をいくらか解消しようとする思惑があった
ものと思われる。しかし、酪農家に対する生乳代金の未払いが累積するなど、信頼
度が急速に薄れている同公社の事業参画が、教育現場や乳業会社の反感をあおった
感も強い。

 政府は今後、学乳供給の対象を小学6年生までの児童に引き上げるなど本事業を
拡大する意向を表明しているが、牛乳納入業者の選定などをめぐる不正のうわさな
ども取りざたされており、タイでは全体の牛乳消費における学乳の割合が高いだけ
に速やかな政府の対応が望まれている。


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