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【ブラッセル駐在員 島森 宏夫 5月31日発】EU委員会は、5月24日、家畜への 成長ホルモンの使用・輸入禁止措置の継続を適当とする提案を採択した。中でも発が ん物質と考えられるとされた17β-エストラジオールについては永続的な使用中止を 提案した。この提案は、最近の公衆衛生に関する獣医政策科学委員会(SCVPH) の見解に照らして決定されたものである。遅くとも2001年7月1日までには法令の改 正・実施を目指したいとしている。 EUのホルモン牛肉輸入禁止措置については、世界貿易機関(WTO)紛争処理委 員会で97年8月および98年1月(上級委)に科学的根拠に欠けるとして、衛生植物検 疫措置に関する協定(SPS協定)違反と判定された。これを受けて、99年4月30日、 SCVPHはさまざまな証拠をもとに「牛へ使用される6種類の成長促進ホルモン剤 (17β-エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、ゼラノール、トレン ボロン、メレンゲステロール・アセテート)は消費者に対して健康リスク(危険性) をもたらす恐れがある」との見解を発表した。すなわち、これらのホルモン剤による 内分泌、成長、免疫学的、神経生物学的、免疫毒性および発がん性の影響が予想され ると結論付けた。また、17β-エストラジオールについては、腫瘍形成および進行を 引き起こす発がん物質と考えられるに足る十分な証拠があるとしていた。 その後約1年が経過したため、SCVPHは、EU委員会の要請に基づき、複数の 最新科学レポートにおける知見を踏まえた見解の見直しの必要性を検討していたが、 改正は必要ないことを全会一致で再確認した。 この報告を受け、EU委員会は、17β-エストラジオールおよびそのエステル類似誘 導体については永続的な使用中止を提案することとした。また、そのほかのホルモン 剤については暫定的使用禁止の継続を提案するとともに、より完全な科学的情報を収 集していくこととしている。 なお、WTOでのクロ裁定後、EUでは、ホルモンの安全性などに関して17の調査研 究が実施されているが、その結果の公表にはさらに数ヵ月を要する見込みである。 一方、米国では、EUのホルモン牛肉輸入禁止措置に対し、一定品目に100%の報復関 税を課しているが、このほど、より効果的な制裁を目指し対象品目の入替方式の導入を 決定した(「海外駐在員情報」5月30日号参照)。輸出業界への被害が大きくなるもの と予想されるため、EUは、その是非についてWTOへの諮問を検討中である。ただし、 EU関係者は、この米国の決定と今回の提案との関連は否定している。 米国・EU間のホルモン牛肉紛争は、89年1月のEUによる輸入禁止措置以来10年以 上にわたるが、また、激しい論争が再開されることが必至となった。
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