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改革を目前に酪農経営者が激しいデモ(豪州)



【シドニー駐在員 野村 俊夫 6月8日発】豪州の飲用乳生産地域では、酪農乳
業制度改革実施後の飲用乳価が予想を下回る水準に下落することが明らかになるに
つれて、酪農経営の将来に対する不安が高まっている。5月31日には、シドニーに
ニューサウスウェールズ(NSW)州各地から約300名の酪農経営者が結集し、改革
実施の延期や補償措置の上乗せを要求して同州議会前の路上に生乳をまき散らすな
ど激しいデモ行進を行った。

 豪州では、7月1日から実施される飲用乳取引の完全自由化を目前に、乳業メー
カーは酪農経営者に対し、厳しい価格提示を行っている。現在、NSW州政府は53
豪セント(約33円:1豪ドル=約62円)/リットルの最低価格を定めているが、こ
れまでにメーカー側から提示された新価格は27〜32豪セント(17〜20円)/リット
ルと、同州政府や酪農経営者の当初見込みを大幅に下回る水準であることが明らか
となった。同州では、約1,800戸の酪農経営のうち、約半数が2年以内に廃業せざる
を得なくなるといわれている。

 こうした事態に危機感を募らせた同州政府のアメリー農業大臣は、6月6日、連
邦政府あてに全国最低価格の導入を求める緊急声明を発表した。これは、2000/01
年度の最低価格を現状のままで凍結し、その後、数年かけてこれを徐々に引き下げ
るという提案である。しかし、連邦政府は、飲用乳規制はあくまでも州政府の管轄
だとして応じていない。

 一方、会員数の激減と組織の存続の危機に直面したNSW州酪農経営者連盟(D
FF)は、先般、改革の影響を過小評価して州内の酪農経営者をミスリードした州
政府を非難すると同時に、ビクトリア(VIC)州など他州の酪農経営にも同等の
条件で門戸開放することを条件に、NSW州の飲用向け生産割当制度を維持すると
いう妥協案を発表した。しかし、この案は、飲用乳規制を温存するだけでなく、当
該規制が連邦内の自由な取引を保証する憲法の規定にも抵触するとして、連邦・州
政府のいずれからも却下された。

 こうした中、VIC州議会は、6月2日、飲用乳規制の撤廃法案を与野党賛成で
採択し、他州の動向いかんにかかわらず、同州単独でも7月1日から飲用乳規制を
撤廃することを正式に決定した。まさに「さいは投げられた」わけである。NSW
州政府や同州の酪農経営者がいくら強硬に反対したところで、もう後戻りは有り得
ない状況となった。

 NSW州の酪農経営者の約半数もが2年以内に実際に廃業するかどうかの予測は
極めて困難であるが、少なくとも7月からの酪農乳業制度改革が飲用乳規制の撤廃
を通じて豪州の酪農生産構造全体に多大な影響を及ぼすことは間違いない。


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