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フィリピン畜産・飼料業界、トウモロコシ不足で混迷



【シンガポール駐在員 宮本 敏行 6月8日発】フィリピンでは、ミンダナオ島
において長引く政府軍とイスラム系開放運動家の衝突や、天候不順によるトウモロ
コシの減産が畜産・飼料業界に暗影を落とし始めている。

 ミンダナオ島は畜産業の要地およびトウモロコシの一大生産地として知られてい
る。しかし、今年初めに紛争が勃発して以来、治安の悪化に加えて天候不順により
トウモロコシ生産が減少し、養豚農家などは深刻なトウモロコシ不足に見舞われて
いる。ダバオ養豚協会によると、通常1kg当たり6〜7ペソ(約16〜19円:1ペソ
=約2.7円)のトウモロコシが8〜9ペソ(約22〜24円)まで上昇しており、畜産
農家は生計を立てられない状況に陥っているという。また、大規模養豚農家も不足
分を米国やカナダから輸入した高価なソルガムや小麦で手当てせざるを得ず、生産
コストが大幅に上昇するという結果も招いている。さらに、フィリピン農業省検疫
局は、紛争により立ち退いた農家が残した家畜が野生化し、豚コレラなどの感染症
を媒介する恐れもあるとして、畜産関係者に注意を喚起している。 

 こうした中、全国養豚協会およびフィリピン養豚農家協会が持つトウモロコシの
無税での輸入権益をめぐり、農業省とこの2団体の確執が表面化し始めた。2団体
は98年、ケソン市地方裁判所において、農水産業近代化条例にのっとった報奨措置
として、無税でのトウモロコシの輸入権を勝ち取り、これまでに約4万トンを輸入
している。これに対し、農業省は国内のトウモロコシ農家を保護する目的でその取
り消しを要請しているが、現在のところ裁判所の決定は覆っていない。

 また、農業省のアンガラ長官はこのほど、各省の長官で構成される委員会に対し、
トウモロコシのミニマムアクセス数量(MAV)の追加分として10万トンの輸入を
認めるよう勧告した。フィリピンは世界貿易機関(WTO)協議において、今年は
173,550トンのMAV枠を設定しており、今回分も含めたこれまでの追加分を加え
ると今年は324,550トンのMAVが見込まれている。

 これらの動きに対して、トウモロコシ生産者団体は、政府の法廷での対応の遅さ
や低関税率のMAV枠の追加に踏み切ったことを非難、政府が畜産業従事者をより
厚遇しているとして不満の意を表明しており、畜産・飼料業界は混迷の色を深めて
いる。

 トウモロコシは、飼料原料としての位置付けが極めて高く、それに携わる人々も
多いだけに、事態を収拾する政府の手腕が期待されている。

 しかし、一部の地域ではトウモロコシの生産強化に向けた取り組みも行われつつ
ある。ミンダナオ島やルソン島の地方政府は、ドイツで第2位の規模を誇るHVB
銀行との提携で6億1千3百万ペソ(約16億6千万円)を投じたトウモロコシ産
業の機械化プロジェクトに乗り出した。特にミンダナオ島では、昨年が豊作であっ
たにもかかわらず、保管施設の不足などから収穫の多くが無駄になっており、加工
や製品の取り回しなどの分野も含めて抜本的な改革が不可欠なものとなっていた。
このプロジェクトは、これにより見込まれるトウモロコシの増産が、畜産業の発展
や輸出による外貨獲得につながるとして、大きな期待が寄せられている。


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