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米国農村部における農業の経済的役割が縮小
【ワシントン駐在員 樋口 英俊 6月8日発】米農務省(USDA)は、先ごろ 農村部の雇用や所得に対する農業の役割に関するレポートを発表した。これによれ ば、農村と農業を同義語的にとらえる人が依然として多い一方で、農業はもはや米 国の農村経済をけん引する主要な産業ではないとしている。 米国の人口のうち、農業従事者の占める割合は1820年には約7割に達していたが、 1990年にはわずか2%にまで減少している。こうした要因として、人口や所得の増 加により、農産物に対する需要は増えたものの、非農産品やサービスの需要の伸び がより著しかったことや、農業生産性が向上したことから、余剰労働力や資本が他 産業へ流れたことなどが挙げられている。 19世紀初頭以降、農村部には全人口の約2割に相当する非農業部門の雇用があっ た。1960年代の後半までは、農村部には余剰となった農業部門の雇用を受け入れる 能力がなかったため、結果として都市部への人口流出、農村人口の減少へとつなが っていった。しかし、その後、工業、サービス業といった非農業部門が農村部でも 成長したことから、農村の人口は比較的安定して推移するとともに、これら産業が 農村経済を特徴付ける主要な産業として、農業に取って代わったとUSDAは指摘 する。 農業従事者数は今後も減少が見込まれており、労働統計局(BLS)は、98年か ら2008年の間に経営者数が13%、被雇用者数が約7%それぞれ減少すると予測して いる。一方で、非農業部門の雇用は同期間に14%の増加が見込まれている。 農村の収入面については、90年代は特に好景気による非農業部門での雇用増など もあり、農業へ依存している(収入の2割以上が農業によるものと定義)地域の数 は減少している。 それでも、中西部の人口密度の低い地域などでは、依然として農業依存度が高い ところがあり、こうした農村では、食品加工、販売などの農業関連ビジネスを奨励 する付加価値戦略が取られる例が見られる。しかし、食品加工などは、配送拠点、 消費地へのアクセスといった点から都市部にメリットが多く、農村経済へ寄与でき ないケースもあるようだ。 こうした中、USDAは、農村の生き残りと成長のためには、サービス部門を取 り込んでいくことが重要としている。今後10年間においては、輸送、通信、小売業、 金融、保険、健康産業などのサービス部門の成長率が高いといわれているためであ る。91年から96年において新たに創出された非都市部の雇用の約7割がサービス部 門のものであり、98年から2008年の間に創出される全雇用の大半がサービス部門に よるものとBLSも見込んでいる。 農村の脱農業という構造的な変化が、今後の農業・農村政策へどういう形で反映 されていくのか興味深いところである。
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