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【シンガポール駐在員 外山 高士 3月15日発】タイでは、83年から実施し ている乳業メーカーによる国産生乳買い取り義務の廃止を工業省が、また、価格の 上昇が見られている乳幼児用粉ミルクの関税の引き下げを大蔵省が、それぞれ閣議 に提案した。このことに酪農家は強く反発し、約100人が政府機関の入り口に生 乳をまくなどの抗議行動を起こした。 工業省が廃止を提案した、乳業メーカーによる国産生乳の買い取り義務は、通常 1:1規則と呼ばれ、国内酪農業の振興と、粉ミルクの輸入による外貨の流出を防 止する目的で実施されている。この規則では、牛乳を輸入するためには、最低でも 同量の国産生乳を1リットル当たり12.5バーツ(1バーツ=約2.9円)で購 入することと、その購入量を毎年20%以上増加させなければならないこととなっ ている。しかし、95年からのガット・ウルグアイラウンド合意の実施に伴い、脱 脂粉乳の輸入に関税割当制度が導入され、政府が割当枠を前年の製造実績に基づい て、@乳飲料製造業者、Aコンデンスミルク製造業者、B乳製品を原料とする食品 製造業者、C輸入商社にそれぞれ割り振り、それを各業界内で分け合う形を取って おり、この買い取り義務の規則は、実際には機能していない状況となっている。な お、99年8月に自動車部品などの工業製品に関する1:1規則は、既に廃止が決 定されている。 一方、大蔵省が提案した関税率の引き下げ内容は、品不足により価格が上昇して いると、消費者団体から抗議が出ている乳幼児用の粉ミルクで、現在10%の関税 率を1%に引き下げるものである。 タイ酪農業協同組合では、これらの措置が実施されれば、乳飲料製造業者などは、 国産生乳の購入をやめて安価な輸入脱脂粉乳を利用するようになり、国内酪農家2 万人以上が生活に困ることになるとしている。また、米国などの先進国においても 酪農業に対する助成を行っていること、粉ミルクの品不足は製造業者が国産生乳を 買い控えているためであることなどを挙げて、これらの提案の取り下げを両省に申 し入れていた。 農業協同組合省では、酪農家との話し合いや、小売価格の調査などの時間が必要 であるとの立場から、提案の延期を要望し、結局、今回の提案は延期されることで 事態を収拾することとなった。 しかしながら、同国の乳製品については、東南アジア自由貿易圏(AFTA)構 想などにより、2004年以降自由化を行う方向で検討されており、今回の提案の 延期措置は、これらに伴う市場のグローバル化に逆行するもので、ただ単に、問題 を先送りにしただけであるとの見方が強いようである。
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