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MSAの事業計画を一部見直し(豪州)



【シドニー駐在員 野村 俊夫 3月23日発】豪州では、新たな牛肉格付制度、
ミート・スタンダード・オーストラリア(MSA)の全国展開が進められているが、
この推進母体である豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は、先月末、その事業計
画の一部見直しを発表した。

  これは、牛肉小売部門の過半を占める大手量販店の積極的な協力が得られないた
めとされており、MLAは、当面、食肉専門小売店を中心としたMSAの事業展開
を進めることになるとみられている。

  MSAは、牛肉の食味保証と消費拡大を目的として開発された新しい牛肉格付制
度であり、過去に実施した膨大な食味試験の結果と分析に基づいて肉牛農場から、
輸送、と畜、流通保管の段階に至るまで多くの厳しい基準を設定し、これをクリア
した牛肉(部分肉)のみをMSA牛肉として販売するという事業である(詳細は
「畜産の情報(海外編)」2000年2月号を参照)。

  MLAは、既に、クインズランド州およびニューサウスウェールズ州でMSA事
業を開始したほか、3月末には西オーストラリア州、6月にはビクトリア州でも開
始する予定となっている。

  これまでのところ、MSA牛肉に対する消費者の評価は高く、食肉専門小売店を
中心に、牛肉の売上げが目に見えて増加したという報告が多い。

  ところが、順調に見えたMSA事業計画に、思わぬ支障が生じた。国内牛肉小売
販売の約55%を占める大手量販店がMSAへの積極的な協力に難色を示したので
ある。豪州の大手量販店は3大チェーンに代表されるが、現在、このうち2社は限
定店舗でMSA牛肉を販売しているのみであり、残る1社は全く販売していない。
前記2社も、実際の食肉売場ではMSA牛肉よりも自社ブランドの牛肉を強くアピ
ールしており、多くの食肉専門小売店がMSA牛肉を大々的に宣伝しているのとは
対照的となっている。

  大手量販店がMSAに消極的なのは、MSAが全国統一ブランドになると、大手
量販店の食肉専門小売店に対する販売優位性が損なわれるためとみられている。確
かに、MSAは、これまではもっぱら顧客との信頼関係に依存していた小規模な食
肉専門小売店にとって、非常に客観的かつ有効な品質保証手段となる。一方、既に
自社ブランドを確立している大手量販店にとっては、MSAの推進は自社ブランド
製品の販売戦略を弱める危険性を伴うことになる。

  ただし、これらの大手量販店は、客観的な品質保証システムとしてのMSAの意
義は高く評価しており、既に自社ブランド製品の規格にMSAの品質管理基準の一
部を取り入れている。

  MSAは、牛肉の食味保証と消費拡大を目的とした事業であるため、仮に大手量
販店の積極的な協力が得られなくても、その品質保証システムが有効に活用されて
牛肉消費が拡大すれば、その当初の目的は達成されるとも言える。しかし、今回の
事業計画の見直しに示されたように、MSA事業としての採算は、小売部門を含め
た業界全体の協力なしでは難しいとみられている。MLAは、MSA事業への協力
をめぐる大手量販店との交渉を続けるとしており、その成り行きが注目されている。


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