ALIC/WEEKLY


NSW州北部の洪水被害に特別支援措置(豪州)


【シドニー駐在員 幸田 太 11月23日発】豪州連邦政府は11月21日、豪雨による
大規模な洪水の被害に見舞われたニューサウスウェールズ(NSW)州北部の農業
生産者に対し、特別支援措置の実施を決定した。既に豪雨は終息に向かっているが、
NSW州北部やクィンズランド(QLD)州南部において、収穫直前の穀物や家畜
が多大な被害を受けたと報告されており、今後の影響が懸念される。

 NSW州政府によると、11月第2週目から降り出した雨は、同州北部を中心にそ
の勢いを増し、2週間にわたり降り続き、降雨量は200ミリを超えたとされている。
当該地域の年間平均降雨量は600ミリ程度であるため、わずか2週間でその3分の
1が降り注いだことになる。

 また、今回の洪水によって冠水したとされる地域は、約21万平方キロメートル
(日本の国土面積の約3分の2)に達したとされ、その害規模の大きさがうかがえ
る。

 現在、報じられている農作物の被害は、流失、水没した小麦への被害が最も深刻
とされている。冬作小麦は収穫目前であったことから仮に収穫できたとしても品質
低下は避けられず、約300万トンが価格の安い飼料用に転用せざるを得ないと言わ
れている。これにより飼料用小麦の価格は10〜20豪ドル(約600〜1,200円:1豪ド
ル=60円)ほど下がると予想されている。

 また、NSW州中部のダボーの家畜市場では、道路の水没、寸断で生体家畜の輸
送などにも影響が出ており、2週間前は4,814頭あった上場頭数が今週は72頭に激
減し、品薄感から生体価格の上昇も懸念されている。

 さらに、QLD州南部では、牧畜地域への野犬(ディンゴ)などの有害野生動物
の侵入を防ぐ隔離フェンスが数百キロメートルにわたり流失し、その修復が急がれ
ている。

 豪州連邦政府は、被害額を6億豪ドル(約360億円)以上と見積もり、同州北部
地域の農業生産者を中心に、総額1,000万豪ドル(約6億円)の特別支援措置第一
弾を行うことを決定し、追加の支援措置についても、現在、内容などを検討中であ
る。

 その内容は、@洪水の被害を受けた農地、牧柵、機械施設等の復旧のための低金
利融資(1戸当たり8万豪ドル(約480万円)を上限、償還期間最長10年、4%固
定金利)、A安全地域への家畜移動コストの半額助成となっており、申請受付期間
は、今後6ヵ月間とされているが、対策を発表した当日だけでも74件の申請があっ
たと報じられている。

 豪州は、広大な国土を有するにもかかわらず、全体の約6割とされる農業用地の
約90%はやせた乾燥土壌であり、保水能力は極めて低い。したがって、ひとたび、
それを超える雨が降ると容易に洪水が発生し、農畜産業に甚大な被害を及ぼすこと
になる。今年は、3〜4年周期で繰り返される干ばつの始まりと懸念されており、
実際に現在、西オーストラリア(WA)州では深刻な干ばつが起こっているほか、
南オーストラリア州ではイナゴの大発生も確認されている。

 干ばつの被害の一方で、同時に洪水の被害が発生しており、豪州の国土の広さと
気象条件の多様さを示す実例といえよう。


元のページに戻る