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豪ドル史上最安値を更新、畜産物輸出に追い風
【シドニー駐在員 野村 俊夫 10月5日発】豪州ドルは、10月4日午後、豪 州連邦準備銀行(RBA)が関係者の大方の予想に反して公定歩合を6.25%に据え 置くと発表したことから、対米ドルで53.37米セントに下落し、先月21日に記録 したこれまでの史上最安値(53.63米セント)を一気に更新した。 一方、豪州統計局(ABS)が同日発表したところによると、8月の国内小売り 売上高が予想を大幅に上回って前月比5.6%の増加となり、7月に10%の物品サー ビス税(GST)を導入したにもかかわらず、国内消費者の購買意欲が依然として 旺盛に保たれ、豪州経済が好調に推移していることが示された。 こうしたことから、連邦政府のハワード首相は、豪州ドルが為替市場で不当に安 く評価されていると厳しく批判しているものの、豪ドル安の為替基調に変化はなく、 RBAによる介入が検討されている。 豪ドル安は、牛肉や乳製品などの輸出産業にとっては願ってもない追い風となっ ており、生産者を中心に多大な恩恵をもたらしている。 肉牛産業では、主産地のクィンズランド州が、過去2年間、例年を大幅に上回る 降雨に恵まれたため、生産者の牛群保留によって若齢牛の出荷が減少しており、肉 牛価格が5〜6年ぶりの高値をつけている。また、米国の肉牛生産が減少局面にあ り、対米牛肉輸出が大幅に増加すると見込まれていることや、東南アジア諸国の経 済回復に伴って生体牛輸出が増加していることも肉牛価格を押し上げている。 酪農産業では、EUの乳製品在庫の減少に伴って国際乳製品市況が高騰している ため、加工原料乳価格が前年比17%もの上昇となっており、豪ドル安がここでも生 産者への恩恵を増幅している。豪州では、7月1日から生乳取引きの完全自由化が 実施され、飲用向け生乳価格が大幅に低下した。このため、飲用乳地域の生産者は 苦境に陥っているが、加工原料乳地域の生産者は、これとは対照的に、高い乳価を 享受している。 一方、豪ドル安は、輸入に頼るガソリンなどの価格を大幅に上昇させ、生産コス トを押し上げて製造業関係者を悩ませている。豪州は、もともと農業や鉱業など第 一次産業は極めて強いものの、製造加工業は労働コストなどの面で国際競争力に欠 けている。外貨獲得に貢献しているのは、圧倒的に第一次産業製品(石炭、鉄鉱石、 牛肉、乳製品、羊毛など)であり、加工製品は農業機械や繊維までも輸入に頼って いる状況だ。 連邦政府は、国内製造加工業の長期育成に努めているが、今回の豪ドル安は、こ の努力に水をさす恐れがあると懸念されている。豪州資源開発局(ABARE)は、 最近、豪ドルが、来年にかけて、対米ドル60セント前後で推移するとの見通しを発 表した。豪州経済が今後も良好なバランスを保てるか、連邦政府の政策が注目され ている。
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