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農業牧畜の塩害対策に15億豪ドルを投入(豪州)



【シドニー駐在員 幸田 太 10月12日発】連邦政府は10月10日、農業牧畜
などの分野で深刻化する塩害への対策として、今後7年間で総額15億豪ドル(900
億円:1豪ドル=約60円)を投入する計画を発表した。このうち7億豪ドルを連
邦政府が負担し、残りは各州政府が負担するとされている。

 今回の対策は、塩害地域の拡大阻止と土壌の復旧、水質の改善、塩耐性作物の
開発、土壌や水に塩分が集積することを阻止する技術の開発などが目的とされて
いる。その内容は、@新たな水質基準目標の設定、A土地管理に関する責任を持
つ調整組識の各州での設置、B土地所有権と水所有権の分離、C現行の土地と水
価格制度の再構築、D地表水と地下水についての利用制限、E新たなかんがい施
設等の建設の禁止などの総合的なものとなっている。

 なお、州政府は、水利権を現行の権利保持者から買い取る場合には、補償を行
わなければならないともされている。

 当面、塩害の被害が深刻な20ヵ所を対象に試験的に実施されることとされてい
るが、豪州国内で最大の河川であるマレー・ダーリング川流域の水質改善が対策
の中心となる。

 マレー・ダーリング川は、流域面積約91万ku、総延長約5,328km、クインズ
ランド(QLD)州北部からニューサウスウエールズ(NSW)州を縦断するダ
ーリング川とビクトリア(VIC)州中部から流れ出すマレー川がサウスオース
トラリア(SA)州で交わり南氷洋にそそいでいる。豪州のかんがい用水の7割、
流域のQLD、NSW、VIC、SA州の住民生活や農業を支えるライフライン
となっている。その下流のSA州の州都アデレードでは、数十年後には塩害によ
りマレー川の水を塩害により飲用できなくなる可能性も指摘されており、その対
応が迫られた現状がある。

 もともと、豪州大陸は海底が隆起して形成されたため土壌中の塩分が高いが、
半世紀ほど前から農業者が急激に森林を伐開し、草地、畑地などを拡大したこと
により、土壌の状態を大幅に悪化させた。さらに、農産物の生産性を向上させる
べくかんがい施設の整備を急速に進めた結果、地下水位の上昇を招き、塩分が地
下水に染み出してその害を拡大させている。

 年間降雨量が日本の半分ほどにも満たない豪州の半乾燥地帯では、強い蒸発作
用による土壌中の塩基性物質の土壌表面への集積はもちろんのこと、土壌中の塩
分が河川に流れ込み、その塩分濃度を上げて、かんがいの農地の作物に被害を与
えるだけでなく、砂漠化が進展するなど問題となっている。

 調査報告では、豪州の塩害地域は、向こう30〜100年間のうちに対策を打たなけ
れば、現在の250万ヘクタールから1千200万ヘクタールに拡大するとされており、
農業の比重が大きい豪州にとっては深刻な問題となっている。

 今日まで、かんがい用水を利用することにより、牧畜、園芸、水稲など生産性
を向上させてきたVIC州、NSW州、SA州にとって、かんがい用水の利用制
限の影響は大きい。また、放牧地における水利用制限や草地開発そのものの制限
は、上流のQLD州の牧畜産業にも影響を及ぼす可能性が高い。

 この計画は、来月の連邦・州政府の関係閣僚会議で議論されることとなるが、
各州政府の今後の対応が注目される。


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