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酪農生産者がスーパーなどに抗議デモ(豪州)



【シドニー駐在員 野村 俊夫 10月19日発】豪州では、7月1日からの制度改革
で生乳取引が自由化された結果、飲用向け乳価が大幅に低下しているが、10月10日
から13日にかけて、各地の酪農生産者が、予想を上回る乳価の下落は大手スーパー
が飲用乳メーカーによる値下げをあおったためだと非難して、当該スーパーなどに
対する全国的な抗議デモを繰り広げた。

 今回のデモは、豪州牛乳生産者連盟(AMPA)が全国の酪農生産者を対象に組
織したもので、豪州最大のスーパーマーケットチェーンであるウールワースなどを
標的として実施された。

 ニューサウスウェールズ州北部のリズモア市では10日、約300人の酪農生産者がス
ーパーの前で集会を開き、見物に集まった多くの消費者に対し、大幅な乳価の下落
によってもたらされた酪農生産者の窮状を訴えるとともに、スーパーのプライベー
トブランド(PB)牛乳が生乳の値下げを誘因した経緯を説明し、酪農生産者を救
うべく、PB牛乳を買い控えるように協力を求めた。

 また、クィンズランド州や西オーストラリア州、ビクトリア州などの各地でも、
町の中心部にあるスーパーの店頭に乳牛を放つなどの抗議デモが行なわれ、一部で
は警察が出動する騒ぎとなった。

 豪州では、7月1日から生乳の取引が自由化されたため、それまで各州の規制に
よって価格が支持されていた飲用向け生乳の生産者価格が大幅に低下している。こ
の低下はある程度事前に予想されていたものの、その幅が予想を上回るものとなっ
たため、連邦政府が用意した補償措置では不充分との不満が生産者の間で高まって
いる。

 この不満は、PB牛乳の供給契約の更新を入札によって行った大手スーパー各社
に向けられた。これらの入札が、販売シェアの拡大を求める飲用乳メーカーの値下
げ競争をあおる結果となったからである。実際、飲用乳メーカーによる値下げは直
ちに生産者に転嫁され、今月に入ってから各メーカーが生産者に提示した乳価は軒
並み5豪セント(約3円:1豪ドル=60円)/リットル程度の引下げとなっている
(乳価の契約は通常3ヵ月単位であるため、7月の次は10月が更新時期になる)。

 デモを組織したAMPAの代表は、乳価の引下げによって酪農生産者の収入が40
%近く減少し、生産コスト割れとなる経営が続出する中で、大手スーパーは、逆に
牛乳小売り販売の利益率を20〜40%も上昇させたと非難している。

 一方、大手スーパーの仕入れ担当者は、酪農生産者が自分らをデモの標的にする
のはまったく的外れであり、批判されるべきは驚くほどの安値で応札した飲用乳メ
ーカーの側だ、と困惑した表情でインタビューにこたえた。

 しかし、この責任を誰に帰するかいくら議論しても、多くの酪農生産者が経営危
機に陥っているという事実は改善されない。豪州の酪農業界は、当分の間、混乱の
渦から抜けられそうにない。


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