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【シドニー駐在員 野村 俊夫 4月19日発】豪州食肉家畜生産者事業団(ML A)は先般、牛肉食味保証制度(ミート・スタンダード・オーストラリア:MSA) のさらなる積極的展開を図るべく、従来の企業から独立した格付員に加え、食肉企 業内の格付員を認めることなどを決定した。食肉企業や大手スーパーはこの決定を 歓迎しているが、専門家からは格付けの中立性維持を懸念する声も挙がっている。 MSAは、消費者においしい牛肉を提供することにより牛肉消費の伸び悩みを打 開するべく、MLAが2年前に開始したプロジェクトである。まず、大規模な消費 者試食テストによって、肉牛の品種(血統)、飼養管理、生体輸送、と畜解体処理、 枝肉管理や部位別格差に至るまで牛肉の「おいしさ」に影響を及ぼすさまざまな要 因が分析され、各要因について詳細な基準が定められた。現在は、これらの基準を クリアした牛肉にのみ小売り段階で3種類の「MSAラベル」が添付され、併せて その牛肉に適した調理方法が示されている(詳細は「畜産の情報」海外編2000年2 月号参照)。 MSAはブリスベーンを皮切りに各都市で展開されて順調に滑り出したが、同時 にいくつかの問題も現れた。まず、国内牛肉販売の60%以上を扱う大手スーパー3 社が、既存の自社ブランド牛肉の販売促進を優先し、MSAには消極的な態度を示 したのである。これに対し、多くの食肉専門小売店は積極的にMSAの推進に努め たものの、やはり大手スーパーの積極支援なしではその影響力に限界が見られた。 次に、当初はMSAによる牛肉消費拡大に期待していた食肉企業が、コスト面か らその推進に難色を示し始めた。最大のネックとなったのは多数のMSA格付員の 養成維持コストであった。MLAは、MSAの中立性を維持するべく食肉企業から 独立した格付員を養成維持する計画を持っていたが、それには多額のコストがかか る上、その財源は食肉企業を含む業界全体から集めた資金で賄われることになるた め、日頃から厳しい国際競争に直面している食肉企業が難色を示したのである。 先般、MLAはこれらの問題への解決策として、第1に食肉企業内(社員)の格 付員を認め、第2にMSAの技術を公開して積極的な活用を促すことを決定した。 ただし、いずれの場合もMSA基準の維持に関する定期的な監査を受けることを条 件としており、また、格付員の審査を受けない場合には「MSAラベル」や「MS Aロゴ」は使用できないとされている。 今回の決定に対し、食肉企業はコストの増加が回避できると歓迎し、大手スーパ ーも自社ブランド牛肉にMSA技術を利用できると評価している。このため、今後 はMSAの推進とその技術の積極的な活用がさらに進むと期待されている。しかし、 MSAの研究開発に当初から係わった専門家たちからは、格付けの中立性の維持が 失われる危険性について重大な懸念を表明する声も挙がっている。長い年月と巨額 の研究開発コストを投じたMSAが今後どのように発展するか、正念場に差し掛か っているといえよう。
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