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【シドニー駐在員 幸田 太 1月30日発】豪州農業資源経済局(ABARE) は1月30日、酪農改革に係る緊急調査の結果を公表した。この調査は、昨年7月 1日に開始された酪農改革が酪農乳業にどのような影響を与えているか、昨年11月 に豪州農林漁業省のトラス大臣がABAREに命じて180戸のサンプル農家におけ る改革の影響を調査させたものである。 調査の内容は@酪農生産者、乳業メーカー、小売業者の生乳取引価格(改革前後 の比較)A生産者が改革前に保有していた飲用乳生産枠(クオータ)の評価額と、 州政府による補償措置B国内競争政策(NCP)の財源として、連邦政府から州政 府に交付された交付金の額とその使途C改革によって消費者の受けた恩恵D改革に よって各州の酪農乳業界が受けた影響E生産者の生乳生産コストと収益性に及ぼし た改革の影響、の6項目であった。 報告では、調査対象農家の平均乳価が、飲用乳の供給地帯であるニューサウスウ エールズ(NSW)州では1リットル当たり36豪セント(約23円:1豪ドル=65円) から25セント(約16円)へ29%、クィンズランド(QLD)州では39豪セント(約 25円)から30豪セント(約19円)へ24%、西オーストラリア(WA)州では36豪セ ント(約23円)から25豪セント(約16円)と30%の下落を見せているのに対し、加 工原料乳の供給地帯であるビクトリア(VIC)州では26豪セント(約21円)から 25豪セントへ(約16円)わずか3.5%の下落にとどまった。 酪農家の収支について、生乳販売収入は取引価格下落の影響を受けたNSW州の 前年度と今年度の推計値の比較では5万3千豪ドル(約344万円)で22%、QLD 州では4万4千豪ドル(約286万円)で23%の収入減となる見込みである。一方、 VIC州では、天候に恵まれ生乳生産量が6%増加すると予想され8千豪ドル(約 52万円)で3%の収入増となり、明暗がはっきりと現れている。 なお、連邦政府の補償措置である酪農構造調整金の交付は、政府から8年間毎年 行われるが、生産者の多くは既に8年分の全額を銀行から借り入れており、その1 人当たりの総交付額NSW州16万2,552豪ドル(約1,056万円)、QLD州12万6,95 2豪ドル(約825万円)、VIC州9万8,704豪ドル(約641万円)は生産者に渡って いる。推計すると生乳販売収入のマイナスに充当した場合、5年間足らずで使い切 ってしまうこととなる。 また、酪農廃業農家数は、昨年7月から12月までの間にNSW州で総数1,725戸 のうち200戸、QLD州で総数1,545戸のうち110戸となっており、この改革の影響 の大きさがうかがえる。 昨年、トラス大臣が本調査の実施に当たって、飲用乳のクオータ制を導入してい たNSW州とQLD州で特に、改革後、州政府による生産者へそのクオータ喪失分 の補償が不十分であることを指摘していたが、本調査でも同様の結果が得られてお り、両州政府に対し何らかの補償を行うべきとの指摘をしている。 今回、連邦政府はこの報告の発表に伴い、酪農改革の影響を少なからず認めた形 となった。今後、この影響についてさらなる議論が起こる可能性が高く、その動向 に注視したい。
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