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【ブラッセル駐在員 山田 理 2月8日発】EU委員会は先般、農業経営におけ るリスク管理の現状および今後の方向性に関する報告書を公表した。価格変動など に対処するためのリスク管理手法として、先物およびオプション取引の活用に加え、 各加盟国における農業保険制度の拡充を求めている。報告書の概要は以下の通り。 〔農業経営リスクのタイプと今後の動向〕 農業経営におけるリスクは、価格変動および生産量変動の2つに大別される。生 産量変動リスクは、@気候変動に加え、A農畜産物の品質に対する要求の高度化、 B生産資材や動物用医薬品の使用に関する規制強化、C人、動物、農畜産物の移動 ・流通の拡大、などの要因により今後さらに増加するとみられる。価格変動リスク も、農畜産物の貿易自由化や共通農業政策(CAP)改革による支持価格(介入価 格)の引き下げなどにより増加するとみられる。また、農業生産の専業化も進展し、 上記2つのリスクをさらに増加させるとみられる。 〔EUにおける現行のリスク管理〕 EUでの農業経営における現行のリスク管理は、以下の4つに大別される。@農 家の経営戦略(リスクの低い作物や畜種の選択、農業生産の多角化によるリスク分 散)、Aリスクの共有・転嫁(契約生産や契約販売、先物取引等の活用、農業保険 等)、B農業外収入の拡大、C公的支援(災害時の援助等)。 〔価格変動リスク対策〕 アジェンダ2000に基づくCAP改革による支持価格(介入価格)の引き下げによ り、先物およびオプション取引などのリスク管理手法の利用機会が今後増加すると みられる。現在、取引量は低い水準にあるものの、取引品目の増加を伴う急速な取 引量の拡大が見込まれる。@価格変動に対処する新たなリスク管理手法として、ま た、A市場の透明性向上に寄与するものとして、EUは先物およびオプション取引 市場の活性化に前向きな関心を持っている。農村開発政策による教育・研修事業を 通じて、農産物の先物取引市場の振興がすでに可能となっているが、さらに広く活 用されるようEUのすべての農業者を対象にした情報提供事業などが必要とされて いる。 〔生産量変動リスク対策〕 生産量変動リスクの管理に対する生産者への支援(災害援助、植物検疫および家 畜衛生に関する対策、農業保険料の補助等)は、各加盟国が前面に立って実施して おり、EUの役割は全体的な枠組み造りなどに限定されている。 結果として、農業保険制度は各国で大きく異なっているが、現行制度の枠内で包 括的な農業保険制度を構築することは可能である。 国および地域により細かく異なる生産者のニーズに対応することが求められる農 業保険の開発については、下から積み上げる手法(Bottom-up approach)を取るこ とが成功につながる。開発は時間をかけて行うべきで、経験の積み重ねにより、カ バーされる産品・リスクを広範にしていくことができる。 〔非周期的所得支持(Anti-cyclical income support)〕 必要な場合にのみ実施し、順調な時期には支持を減らす非周期的な所得支持は、 長期的に見て望ましい手法である。農業分野の崩壊を防ぐことにより、透明性を確 保しながら農業者のニーズに対応するとともに、広く一般から賛同を得ることがで きる。また、緊急災害に対処できるだけでなく、世界貿易機関(WTO)での協定 上の「緑」の政策に適合すると思われる。 具体的な例として、カナダの農業所得災害支援対策(Agricultural Income Disa ster Assistance:AIDA)が挙げられる。ただし、加盟国で税制が異なることや、 個人の農業所得記録が必要なことなどから、EUにおいて、同制度を実施すること は困難である。
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