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【シンガポール駐在員 小林 誠 2月8日発】フィリピン農業省畜産局は2月5 日、ロシア向け輸出の表示があるために揚陸を禁止されていた米国産鶏もも肉の通 関を認めると発表した。これに対し、フィリピン国内の鶏肉生産者は、昨年、米国 産鶏肉の輸入によって引き起こされた鶏肉価格の暴落(「畜産の情報(海外編)」 2001年2月号需給欄参照)を再び誘起し、国内産業の存立を脅かすものだとして、 強く反発している。 畜産局によれば、今回問題となった鶏肉は、輸入手続きに特段の問題はなく、こ ん包資材が再利用されたために、本来「フィリピン向け」とすべきところを「ロシ ア向け」と表示されていただけであり、食品衛生上の検査を終了次第、通関を承認 するとしている。また、国産鶏肉の価格に対する影響を考慮し、これらの鶏肉につ いては、用途をレストランやファストフード・チェーンなどの業務用に限定してお り、一般市場には出荷しないとの確約も得られているとしている。しかし、この一 方で、国産鶏肉の需給ギャップが存在するため、鶏肉輸入を完全に停止することが できないことも認めている。 フィリピンでは、エストラーダ政権当時のアンガラ農業長官が、昨年、輸入鶏部 分肉の影響により国産鶏肉市場が暴落したことを受けて、一般市場向けの鶏部分肉 の輸入を禁止し、輸入を業務用のもも肉と手羽に制限する措置を講じている。 一方、国内ブロイラー生産者で組織する団体は、表示が正しく行われていないこ とを盾に、これら輸入鶏肉の通関を認めるべきでないとの立場を崩していない。同 団体は、このような鶏肉の輸入を許可すれば、国内価格の暴落を招くだけでなく、 消費者に健康被害をもたらす可能性もあるとしている。同団体によれば、これらの 鶏肉は昨年、いったんロシア向けに米国から輸出されたものの、衛生基準に適合し ていないとして、ロシアに輸入を拒否された結果、フィリピンに輸出先を求めたも のであるとしている。さらに、畜産局が用途を業務用に限定しているとした発言に も異論を呈し、輸入鶏肉が現実にはスーパーなどでも販売されている実態を挙げて いる。 フィリピンでは、輸入鶏もも肉が1s当たり44ペソ(約114円:1ペソ=2.6円) で販売されており、この価格は国産鶏の損益分岐点である51ペソ(約133円)を約 14%下回るものである。このようなことから、輸入鶏肉が一般市場に流れた場合、 国内の鶏肉生産はとうてい維持できないとされている。鶏肉生産者は、鶏肉の輸入 が阻止し得ないのであれば、飼料用トウモロコシを安値で提供するなど、政府に対 し何らかの保護・救済措置を講ずるよう求めている。 一方、モンテメーヤー新農業長官は2月6日、アロヨ大統領に提出した11項目の 主要農業政策には、鶏部分肉を含む農畜産物の不正輸入に断固とした措置を講ずる ことが含まれていると発表しており、新長官の下で、今回のような灰色ともいえる 貨物がどのように取り扱われるのかが注目される。
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