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カナダ生産者団体、酪農制度への異議に反撃姿勢



【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 2月8日発】カナダの全国的な酪農生産者団
体であるデーリーファーマーズ・オブ・カナダ(DFC)のコア前会長は、1月中
旬に開催された年次総会の席で、スペシャル・ミルク・クラス制度の変更や、世界
貿易機関(WTO)次期交渉に向けた考えなどについて講演を行った。

 スペシャル・ミルク・クラス制度とは、輸出向け乳製品製造のために仕向けられ
る生乳について、国内仕向けに比べ安価な乳価を設定し、生産者にはこれらのプー
ル乳価が支払われるという仕組みである。カナダ政府は、99年にWTO紛争処理委
員会(パネル)および上級委員会において、本制度が輸出補助金に該当すると認定
されたのを受け、2000年12月末までに、WTO協定に整合的な制度に変更する旨を、
申立国である米国およびニュージーランド(NZ)との間で合意している。その変
更内容に関する詳細は明らかにされていないが、DFCによれば、昨年8月にスタ
ートした新制度は、輸出向け乳製品用の生乳に関する価格および数量について、生
産者と乳業者が直接契約を交わして取引を行うというものであり、政府はこれに一
切関与しないとしている。しかし、変更後の制度に対しても不服を唱えていた米国
およびNZは、昨年暮れのカナダ政府との協議が不調に終わったため、次のステッ
プをとるべく準備を進めているとも報道されている。

 講演の中でコア前会長は、「ガラスの家に住む者は、石を投げるべきではない」
として、自国の制度を省みることなく、攻撃の手を一向に緩めない2ヵ国の態度を
批判しつつ、「カナダの酪農・乳業は、国内市場を米国に明け渡すつもりはない」
として、特に、米国の輸出攻勢に対する反発をあらわにした。現在、DFCは、全
国カナダ酪農協会(NDCC)とともに、米国およびNZの動きをけん制するため、
WTOへの逆提訴も視野に入れた、これら2ヵ国の協定不整合な措置に関するレポ
ートの取りまとめを急いでいるとしている。特に、米国に関しては、カリフォルニ
ア州の乳価制度や、殺菌処理されていない牛乳・乳製品に対する輸入制限措置など
を反撃の材料として想定しているもようである。

 また、コア前会長は、WTO次期交渉に関し、酪農品や鶏卵、鶏肉に適用されて
いる供給管理(生産割当)制度および関税割当(TRQ)制度における枠外関税
(2次税率)の維持についても言及した。これら制度については、昨年12月にWT
O事務局が公表した貿易政策評価に関するレポートの中でも、高い枠外関税によっ
て市場参入を阻害しているとの指摘がなされたばかりであるが、国際競争力に劣る
カナダの酪農、家きん産業にとってのいわば生命線であることは間違いない。カナ
ダは、こうした内部事情もあって、農産物輸出国(18ヵ国)から構成されるケアン
ズ・グループの一員でありながら、それとは別に、TRQ制度を含む市場アクセス
に関する交渉提案を提出している。DFCのスタンスもこの交渉提案の中に反映さ
れており、コア前会長の講演の中でも、枠内関税(1次税率)に限った無税化や、
輸出補助金の全廃などについて賛同する意向を明らかにしている。

 カナダ国内における約2万戸の酪農家の声を代表するDFCの姿勢からは、単な
る防御だけに終わらない、カナダ農業のしたたかさがうかがわれる。


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