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カナダのブラジル産牛肉一時禁輸問題



【ブエノスアイレス駐在員 浅木 仁志 2月15日発】北米自由貿易協定(NA
FTA)は、牛海綿状脳症(BSE)対策として牛肉輸出国に対しEUから輸入し
た牛の追跡調査などの衛生調査を課している。南米南部共同市場(メルコスル)で
BSEは発生していないが、97年以前にEUから生体牛の輸入実績がある。カナダ
はブラジル、アルゼンチン、ウルグアイなど主に南米の牛肉輸出国が実施する衛生
調査結果の担当をしていた。

 カナダは、98年に調査対象国に対し報告書の提出を求めたが、ブラジルは報告書
を提出せず最近になって出された報告書も内容が不十分だった。

 このためカナダは、ブラジルのBSE対策は不十分だとして2月2日、ブラジル
産牛肉(生鮮肉、加工肉)の輸入を一時的に禁止すると発表した。カナダの禁輸措
置により米国、メキシコもNAFTA協定に基づき同様の措置を取った。

 事態を複雑にしているのは、中・小型航空機の米国など国際市場獲得をめぐる両
国の反目である。カナダとブラジルは互いに相手の輸出補助を不当とし96年からW
TOの場で争っており、今年に入り紛争処理小委員会(パネル)の設置をめぐり問
題が先鋭化、パネル設置を求めるカナダの主張が退けられた次の日にカナダの禁輸
措置が発表された経緯がある。

 ブラジル政府は、放牧主体の同国でBSEフリーは既に周知の事実で、カナダの
牛肉禁輸措置は航空機輸出問題の報復だと非難し、今年4月、カナダのケベックで
開催予定の米州自由貿易地域(FTAA)について協議するサミットをボイコット
する構えである。カナダがこのまま禁輸措置を続ける場合、ブラジルもカナダ産の
輸入製品に制裁を加える用意があるとし、事態は南北アメリカ大陸をまたがる貿易
戦争に発展しそうな勢いである。

 ブラジルの畜産関係者にとって、約4万トン、額にして8千万ドル(2000年の製
品ベース)の加工肉の米国市場が閉ざされ、ブラジル産牛肉のイメージが悪化した
のは大きな痛手である。輸出主体の食肉処理加工業者は、生産縮小、従業員削減を
余儀なくされ、イラン、チリなどブラジル産牛肉の輸入を見合わせる国や露骨に値
切り要求する国も出ており、今後の波及が心配されている。

 この問題でベネマン米国農務長官は、ブラジルが提出したBSE対策などに関す
る報告書に言及し、早急に分析を進め、今回の禁輸措置の見直しを検討したいと前
向きな姿勢を示している。メルコスル諸国は、ブラジルに協調しながらも事態を静
観する態度のようだ。

 先日、ブラジルのBSE対策評価のため、14日からNAFTA加盟国による合同
衛生調査ミッションのブラジル派遣が決まった。ブラジルも既にEUからの輸入牛
の登録台帳の調査を始めている。衛生ミッションの派遣は、カナダ側が示した事態
収拾のための大きな一歩と思われるが、今後の動向が注目される。


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