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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 2月15日発】タイをはじめとする東南アジ アでは、伝統的に農耕用として水牛が飼養されてきた。しかし、経済の発展ととも に、国によっては飼養頭数が急速に減少しており、早急な頭数の維持・増加を訴え る声が大きくなりつつある。 98年における世界の水牛飼養頭数は1億6千2百万頭で、そのうちの96%はアジ アで飼養されている。世界の総飼養頭数は、インド、パキスタンの上位2ヵ国(全 体の7割を占める)が増え続けているため、わずかに増加傾向にあるが、アセアン 諸国の中には、急激に頭数を減じている国が見受けられる。98年のアセアン諸国の 飼養頭数を見ると、インドネシア(310万頭)が最も多く、フィリピン(300万頭)、 ミャンマー(230万頭)と続く。アセアン諸国の中で、88〜98年の年平均増加率が マイナスとなっているのは、タイ(▲5.2%:98年、200万頭)、マレーシア(▲4.2 %:同20万頭)、インドネシア(▲0.5%:同310万頭)の3ヵ国で、早くから経済 発展を果たしてきた国ほど減少が著しい。 その中でも、最も減少率が大きいタイでは、水牛資源の枯渇を問題視する声が特 に高まっている。99年のタイの水牛飼養頭数(速報値)は120万頭で、ピークとな った83年の640万頭と比較して81%も激減した。同国の急激な水牛の減少の背景に は、@タイが他のアセアン諸国に先駆けて経済が発展したことや、政府が補助金を 交付するなどして農業における機械化を推進してきたことなどから、農村における 農耕機械の普及が急速に進み、役畜としての水牛への依存度が低下したこと、A水 牛の生体価格が肉用牛より安価である一方、水牛肉は牛肉とほぼ同等の価格で取引 されており、収入増を目論んだ農家が次々に水牛を手放したこと、などが挙げられ ている。 こうした状況を受け、政府は、水牛の頭数の減少に歯止めをかけるための施策を 取り始めている。2000年には、低所得層の農民が多く、水牛の8割が集中する北東 部の19県から、モデルとして1地域ずつを選定し、飼養・繁殖技術などの向上に努 めさせている。成績優秀な地域には賞などを与え、地域・農民間の競争意欲を高め るなどの啓もうを行っている。また、国王の肝いりで78年に創設された水牛バンク プロジェクトも強化される。このプロジェクトは、水牛を所有することができない 貧困農家に、耕作や繁殖のために水牛を貸し出すシステムで、調査によれば、2割 の農民がこれを利用しているとされる。政府はさらに、急激な減少の要因である違 法と畜の取り締まりの強化や、地域緊急基金の創設なども視野に入れて、水牛の頭 数維持・増加に努めていくとしている。 なお、本年2月8〜10日の間、タイ東北部のスリン県において、国連食糧農業機 関(FAO)などの主催により、アジア18ヵ国の政府関係者が一堂に会した「水牛 発展セミナー」が開催された。各国の水牛頭数の増減はまちまちであるが、水牛飼 養の現状やその振興について、活発な意見交換が行われた。今後は、アジア全域に おける各国間の協力体制の構築が期待される。 タイでは、農業の機械化が急ピッチで進んだとはいえ、いまだに農耕動力の2〜 3割を水牛に依存しているといわれる。こうした中、全体的に機械化への転換が進 む中、いまだに低所得層の農民の生活を支える水牛の頭数維持・増加を図る政府の 手腕が求められている。
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