ALIC/WEEKLY


酪農の振興に向けた新機関設立の動き(アルゼンチン)



【ブエノスアイレス駐在員 玉井 明雄 1月10日発】アルゼンチンの生乳生産量
は、91年以降施設の近代化や加工処理能力の拡大などを背景に、年々増加し、99
年の生乳生産量は過去最高の約1,033万キロリットルとなった。一方、98年後半か
ら顕著となった国内市場や輸出市場における価格下落傾向、牛乳・乳製品の主要
輸出先であるブラジルの通貨切り下げによる輸出価格の下落、国内消費の伸び悩
みなどからアルゼンチン酪農の危機が叫ばれていた。

 こうした状況下、同国では約2年にわたり、国内生乳生産量の増加や乳製品の
国際市況の影響などによる需給バランスの不均衡を是正するため、アルゼンチン
産牛乳・乳製品の輸出振興などを目的とする新機関設立に関する法案準備を進め
ている。

 同機関の目的としては、@牛乳・乳製品の輸出振興および国内の需要増進、A
季節的な変動が大きい生乳生産の周年化の推進、B輸出奨励などに充当するため
の生産者からの拠出金を原資とする基金の管理、C品質証明および原産地証明の
交付、D国内供給量の安定化を図るためメーカーが生産者に対して支払う生乳最
低価格の設定などが掲げられている。

 同法案に対して酪農業界では、そのメリットとして、@法案の精神には、乳製
品の輸出国としての将来ビジョンが盛り込まれていること、A生産者間の自由競
争が保証されることなどを挙げている。一方、デメリットとして、@同国の輸出
量の割合は生産量の2割程度(99年)と低く、国内市場を重視する業界関係者か
ら基金の使途について理解を求めることが困難とみられること、A政治的な駆け
引きが錯そうする中、生産者から資金を引き出すことが目的とのイメージを与え
てしまったことを挙げている。

 また、アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)が今年初めに公表した報
告書によれば、酪農生産者団体から同法案に対し、拠出金の負担を巡り数多くの
反対意見が出されている。また、生産者団体からの要望として、@牛乳・乳製品
価格を勘案し生産者側とメーカー側が合意した生乳最低価格を設定すること、A
メーカー側との交渉力を高めるため、地方の酪農生産者団体の設立を増やすこと
などが挙げられている。

 アルゼンチン農牧協会(SRA)は昨年12月初め、報道関係者に対する声明の
中で、農業生産に対する振興活動の必要性を強調しているが、その1つとして、
同法案の早期国会通過を求めている。

 SAGPyAの報告書によれば、同法案は昨年8月に農業委員会で審議された後、
商工委員会に回されたが、下院本会議に法案として提出される前にその性格上、消
費者保護委員会、国家予算・財政委員会における事前審議が必要であるとしている。
今後、こうした委員会での審議を経る中で、業界内の意見の調整については引き続
き難航するものとみられている。


元のページに戻る