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【シドニー駐在員 野村 俊夫 1月18日発】豪州政府は、EU諸国で牛海綿状 脳症(BSE)の発生・拡大が深刻な問題となっていることを受け、昨年8月にE U当局から認められたBSE清浄国としての地位を今後も確実に維持するべく、1 月5日、欧州30ヵ国からの牛肉および牛肉加工品を全面輸入禁止することを発表し た(同8日施行)。これと同時にニュージーランド(NZ)政府も同様の措置を発 表した。 豪州は、96年にイギリスでBSEの人体への影響が問題となって以来、同国から の牛肉および同加工品の輸入を全面禁止するとともに、その他の国々をBSEの発 生危険度に応じて4段階にゾーニングし、各ゾーンに応じた輸入防疫措置(BSE フリーの特別証明書の要求など)を講じてきた。今回の措置はこれをさらに強化し たもので、国内外に豪州産牛肉の安全性をアピールするものとなる。 豪州は基本的に牛肉輸出国であるため、生鮮牛肉の輸入はほとんど行われておら ず、今回禁輸対象となった各国からも牛肉加工品(スープ原料、缶詰め、ペースト など)が製品ベースで年間約1千トン(正味牛肉量では国内消費量の約0.2%相当) が輸入されているにすぎない。しかし、豪州政府は予防的措置としてスーパーなど の食料品店に対して該当製品を店頭から自主撤去するよう要請したほか、一般消費 者に対しては各家庭にある該当製品の廃棄を勧告した。 豪州は、スクレイピーの防疫措置として1952年には生体羊の輸入を全面禁止し (NZ産を除く)、66年には動物性飼料の輸入を全面禁止(同)、88年にはBSE の防疫措置としてイギリスからの生体牛輸入を禁止(その後、禁輸対象国を拡大) するなど、種々の検疫措置を導入してきた。 また、豪州国内では96年には反すう動物由来の動物性飼料(国内産)を反すう動 物に給与することを自主規制(97年には禁止)、99年には規制対象動物性飼料を反 すう動物からほ乳類に拡大、現在は全畜種に動物性飼料の給与を禁止することを検 討している。養豚、養鶏業界は生産コストに影響するこの措置に難色を示している が、肉牛業界は積極的に導入するべきと評価している。 さらに、以上の検疫措置や国内規制と併せて、禁輸開始以前に輸入されていた家 畜を隔離して検査と畜したほか、90年には国産牛のBSE検査を開始、98年からは 国際獣疫事務局(OIE)のガイドラインを導入して牛・羊のBSE・スクレイピ ー検査を実施している。豪州は昨年8月、これらの施策によってEU委員会の科学 専門委員会からBSE清浄国(カテゴリー1)のステータスを正式に承認された。 なお、今回のBSE発生拡大について、一部の肉牛関係者はEUや中近東諸国に クリーンな豪州産牛肉を売り込むチャンスと見ているが、大方の関係者はEUのみ ならず他国の消費者が牛肉離れを起こすことに対する懸念を表明している。特に、 最大の牛肉輸出相手先である日本については、96年にBSEやO157事件で苦い経 験をしているだけに、その牛肉消費動向に神経を尖らせている状況だ。
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