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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 1月18日発】インドネシア政府と議会はこ のほど、国内の養鶏業者の保護を目的として、米国産の鶏部分肉(もも、手羽)の 輸入を正式に禁止することで合意した。政府は、昨年6月から実質的な米国産鶏部 分肉の禁輸措置を取っていたが、議会が今回これに同調したことから、国全体とし てのコンセンサスが得られたことになる。ジャカルタ港などにはいまだ通関を許可 されない米国産鶏肉が停留しており、その成り行きが注目されていたが、この合意 によって輸入通関は完全に不可能な状態となった。 農業省は、増加する米国産鶏肉が国内の小規模養鶏農家に打撃を与えることを憂 慮して、昨年6月以来、丸どりのみの輸入を許可している。また、輸入丸どりは国 産品と比較して高価であり、レストランや高級スーパーマーケットを通して流通す るため、ウェットマーケットでの温と体流通が主流の国産品とは、基本的に競合し ないとしている。 近年、安価な米国産鶏部分肉は、アセアン主要鶏肉生産国との貿易摩擦の火種と なる傾向が強い。昨年顕在化したフィリピンと米国の鶏肉貿易摩擦は記憶に新しい ところである。従来、むね肉を好む米国は、ももや手羽といった低需要部位の多く をロシアに仕向けていたが、ロシア経済の低迷から輸出の矛先を、経済の回復基調 が鮮明となったアセアン諸国に向け始めた。これらは、米国では低需要部位だけに 安価であり、インドネシアでは、国産鶏肉価格が1kg当たり1ドル(約119円)で あるのに対し、米国産鶏肉は同0.5ドル(約60円)とほぼ半値である。また、タイ においても、鶏肉の関税引き下げを迫る米国への反感が高まっており、養鶏関係者 が在タイ米国大使館前でのデモ行動などを引き起こしている。 さらに、アセアン地域では、国境を越えた対抗運動も広がっており、タイ、マレ ーシア、インドネシアおよびフィリピンの養鶏協会が集結して「アセアン養鶏業者 協会」を組織、団結して米国の輸出攻勢に対抗していく体制を整えつつある。同協 会は、米国のダンピング問題に立ち向かうだけでなく、一方的に安価な鶏肉を押し 付け、衛生上の問題を挙げて東南アジア産の鶏肉を一切シャットアウトしている米 国に対して、門戸を開放するよう働き掛けていくとしている。 また、インドネシア政府は、今回の輸入禁止措置は、米国産鶏肉における「ハラ ル」(イスラム法に則ったもの)順守の不明確さが引き金の1つとなったと明言し ているが、人口の9割をイスラム教徒が占める同国では、生活に不可欠な畜産物の 供給に関しても、そうした社会的な背景に十分配慮すべきことを物語る一例と言え る。 昨年のフィリピンに続き、インドネシアも米国産鶏部分肉のボイコットに踏み切 ることとなったが、米国のアセアン各国に対する鶏肉の市場開放圧力が高まるにつ れて、今後、同域内でこうした強行措置や反米感情がますますエスカレートするこ とも予想され、今後の動向が注目されるところである。
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