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【シンガポール駐在員 小林 誠 1月25日発】カンボジアのフンセン首相は1 月17日、タイから病気にかかった豚が輸入されて市場に出回っており、国民の健 康を害する恐れがあるとして、同国から密輸される生体豚を厳しく取り締まるとと もに、タイからの生体豚の輸入を禁止すると発表した。 今回の同首相の発表は、首都プノンペン市内の医科大学の開校式の場で行われた もので、病名は特定していないものの、一昨年マレーシアで発生し、同国の養豚産 業を壊滅的な状況に追い込むとともに、約100名が死亡した豚を介するウイルス性 脳炎を指しているとの見方が強い。 このウイルス性脳炎は、本来の宿主と見られるフルーツバットと呼ばれるオオコ ウモリの一種を介して豚に伝播(でんぱ)し、感染豚の尿や体液などに直接接する ことにより、人にも感染するといわれているが、実態についてはまだ解明されてい ない部分が多い。また、カンボジア農業省家畜衛生・生産局によれば、カンボジア 国内で豚肉を原因とした人の疾病は報告されたことがないものの、現在、と畜場や 市場から採取したサンプルを分析中であるとしている。 今回の措置に関連して同首相は、「最近、少なくとも10台のトラックに積まれた 罹患(りかん)豚がカンボジア国内に運び込まれたと聞いている。」としており、 このような密輸を厳しく取り締まるとともに、タイからの生体豚の公式な輸入をも 禁止する根拠としている。また、同首相は、欧州で発生している牛海綿状脳症(B SE)との関連で、各国が輸入禁止措置を講じていることを引き合いにして、同国 が衛生上の理由により特定国からの生体豚の輸入禁止措置を講ずることの正当性を 主張している。同首相の発表を受けて、プノンペンでは市長が陣頭指揮をとり、警 察が密輸豚を取り扱っていると畜場を摘発・閉鎖している。 カンボジアには約240万頭の豚が飼養されており、近年は豚肉消費の伸びが最も 大きく、重要なたんぱく源となっている。しかし、この一方で、毎年約42万頭の豚 が疾病のため処分され、または死亡しており、同国にとって家畜疾病が大きな問題 であることは間違いない。 一方、今回のカンボジアの発表を受け、ブロイラーに次ぐ輸出産品として養豚を 振興したいタイ側は困惑している。タイ農業協同組合省畜産開発局では、99年にマ レーシアでウイルス性脳炎が発生したとき、タイは直ちに同国からの豚の輸入禁止 措置を講じており、タイで同病が発生したことはいまだかつてないとしている。 タイから正式に輸入される生体豚は、タイ輸出統計によると、年間約500頭程度 にすぎないが、実際にはこれを大きく上回る数の豚が、半ば公然と密輸されている とみられる。カンボジアでは、1月24、25日の旧正月をひかえ、豚肉の需要が高ま っており、この時期に首相がなぜこのように唐突な措置を講じたのかについては疑 問が多い。また、国民に対して、「しばらくは豚肉を食べないように」とまで言及 しており、同国の養豚産業に何らかの異変があった可能性も含め、今後の動向が注 目される。
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