ALIC/WEEKLY
【シンガポール駐在員 宮本 敏行 6月28日発】フィリピンでは現在、政府が 乳業会社に国産生乳の積極的な使用を働きかけるなど、生の生産拡大の基盤作りを 目指す試みが始まっている。95年に施行された全国乳業規則により、乳業会社は国 産生乳の使用を義務付けているが、こうした中、モンテメーヤー農業長官は今般、 ケソン市で行われた全国乳業公社の発会式で、各乳業会社に対し、国産生乳を積極 的に使用するよう改めて注意を喚起した。しかし、同長官は、国産生乳の使用割合 については明言を避けている。 フィリピンの酪農はまだ始まったばかりと言っても過言ではなく、消費される乳 製品に対する国産生乳の使用割合は、1%に満たない。99年の同国の乳用牛飼養頭 数は7,100頭で、他のアセアン主要国(インドネシア:33万2千頭、タイ:28万3 千頭、マレーシア:4万3千頭)と比較すると著しく少ない。99年の飼養頭数の増 加率は前年比10%と、他の国々と比較すると高いものの、実頭数としては約600頭 にすぎない。同年の生乳生産量も9,900トンで、マレーシアはこの3倍、インドネ シアおよびタイとは40倍以上の開きがある。しかし、年間1人当たりの乳製品消費 量(生乳換算)は16kgで、他のアセアン主要国(インドネシア:5kg、タイ:20kg、 マレーシア:30kg)と比較しても、それほどのそん色はない。同国では、乳製品が 伝統的な食文化にとり入れられているため、消費の受け皿はあるものの、そのほと んどを輸入に依存している。例えば、生乳生産が約1万トンにとどまる一方、2000 年の乳製品輸入量は190万トンとなっている。 こうした状況を受け、同国では生乳生産の拡大を急務とする声が高まっている。 全国乳業規則では、生乳生産拡大のため、10年計画の White Revolution と呼ばれ るプログラムに、60億ペソ(約156億円:1ペソ=2.6円)の支出が予定されている。 このプログラムでは、段階的に生乳生産を増加させ、最終的には乳製品消費に占め る国産生乳の割合を、現在の1%未満から25%まで上昇させるとしている。しかし、 先にモンテメーヤー農業長官が、国産生乳の使用割合について明言を避けたように、 現在は、生乳需要の一部を国産生乳で賄うことは不可能である。このため、同長官 はとりあえず生乳生産拡大のためのプログラムの進行と並行して、乳業会社に対し 将来的な国産生乳の使用義務を強く印象付けたものと思われる。 一方では、ネスレ社およびアラスカ社の国内2大乳業メーカーが、今年に入って 相次いで乳製品の値上げを行い、貿易産業省からこれ以上の値上げ中止の勧告を受 ける事態が起っている。両社は今年2月および4月に8%ずつの値上げを行ってい るが、その理由について両社は、乳製品の原料となる粉乳類の輸入価格が、ペソ安 の影響を受けて次第に上昇しているためとしている。6月の粉乳類の輸入価格は、 昨年12月と比較して46%高の1トン当たり2,200ドル(約27万5千円:1ドル=125円) まで上昇しているという。 この問題は、為替の変動といった外的要因が、国内の乳製品価格に大きく反映さ れるという、乳製品の原料をほぼ完全に海外へ依存せざるを得ない同国乳業の弱点 を露呈したものと言える。こうした事態を打開するためにも、生乳の生産拡大を求 める声は、今後ますます高まっていくものと思われる。
元のページに戻る