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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 7月12日発】タイ農業協同組合省および全 国の乳業協同組合は、このほど開催された酪農および乳業の産業発展に関するセミ ナーで、懸案となっていた全国牛乳委員会を今年中に設立することで合意した。同 委員会の設立により、牛乳の生産から流通に至る諸般の問題を抜本的に解決できる として関係者の期待を集めている。 このセミナーでは、生産面の問題点として、タイで飼養される乳牛の泌乳量が低 水準にとどまっていることや生乳1kg当たりの生産コストが9.5バーツ(約27円: 1バーツ=2.8円)と高水準であること、生乳の品質の統一性が図られていないこ となどが挙げられた。また、流通面では、学乳制度に係る牛乳の品質問題や補助金 配分の公正性、各学校が夏期休暇に入る期間の慢性的な余乳発生、さらに、輸入脱 脂粉乳の業者間における割当の適正性などが検討された。現在、タイには114の乳 業協同組合があり、一方では、ネスレ社やフォアモースト社といった大規模な乳業 会社のほかに70の牛乳製造会社があると言われ、タイの酪農・乳業界では、こうし た諸問題を解決するために、以前から業界を垂直的に統括する委員会の設立が望ま れていた。委員会の活動資金は、牛乳製造会社から徴収される牛乳1箱当たり0.01 〜0.02バーツ(約0.03〜0.06円)の拠出金で賄われる予定とされている。 また、このセミナーでは、特別にタクシン首相のスピーチも行われ、その中で早 急に解決すべき課題として、国の未来を担う児童を育む学乳事業の適切な運用が掲 げられた。 先に農業協同組合省が発表したタイの本年の生乳生産量は前年比10%増の52万8 千トンとされるが、需要量はその2倍以上の120万トンと試算されており、本来で あれば余乳が生じることはあり得ない。しかし、輸入された脱脂粉乳の価格が生乳 より安価であるため、実際には多くの牛乳製造会社が脱脂粉乳を原料にUHT処理 した還元乳を製造するケースが多く、このことが同国において余乳を生じさせると ともに学乳用牛乳の品質低下の要因となっている。こうした還元乳の製造を制限し ていくため、今後は牛乳の外装に原材料の標記を義務付けるとともに、これを厳格 に監視するシステムの導入が検討されている。 農業協同組合省は、学乳事業に対する国家的なてこ入れを図るため、事業に係る 来年の生乳の購入予算を18億バーツ(約50億円)に増額し、事業期間も従来の 年間200日から260日に延長し事業の強化を図りたいとしている。さらに、無駄な流 通経路を省き、生産者から消費者たる児童に牛乳を速やかに供給するため、全国を 乳業協同組合を単位とした区域に分け、牛乳の生産・流通を地域単位で完結させる 体制の構築を急ぐとしている。この地域化は、生乳生産者や乳業協同組合にとって もコスト削減となることや、「1地域1品運動」といった各地の特徴を打ち出した 特産品の創出が可能となることから乳業全体の活性化が期待されている。 こうして進められる酪農・乳業界を統括するためにも、全国牛乳委員会の役割に 期待が寄せられると共に、その設立や運営を援護する政府の手腕が注目される。
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