ALIC/WEEKLY
【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 7月26日発】米国においては、毎年約70億ガ ロン(約266億リットル:1ガロン=約3.8リットル)の飲用乳が販売され、その市 場規模は約220億ドル(約2兆7,500億円:1ドル=125円)にも上っている。また、 近年においては、農家受取価格が低迷する(注:昨年12月以降は回復傾向)一方で、 地域によっては、大型スーパーが不当な高値で牛乳を販売しているといった問題が 取りざたされるなど、農家受取価格と小売価格とのかい離が酪農関係者の間で懸念 されている。 こうした中で、米会計検査院(GAO)は先ごろ、飲用乳の価格構造に関するレポ ートを公表した。これは、酪農関係州選出の民主党上院議員2名の要請に基づくも ので、98年に公表された第1回レポートのフォロー・アップという趣旨によるもの である。今回も、飲用乳市場の約6割のシェアを占める乳脂肪分2%、1ガロン容 器入りの牛乳について、全米の主要15都市(前回は31都市)の地域を対象に、生産 ・流通の各段階における価格調査が実施され、前回のレポートと同様の実態にある ことが明らかにされた。 まず、牛乳の小売価格に占める生産・流通段階のそれぞれの割合は、98年3月〜 2000年9月の全米平均で、農家43%、酪農協5%、乳業メーカー33%、小売店19% という内訳となっている。ただし、各都市間では、数値にかなりのばらつきがある。 例えば、ダラス地域(テキサス州)のように、「同期間中に価格戦争があった」 (米農務省)ため、小売店の取り分がマイナス21%と大きく原価割れしたようなケ ースもあれば、ミネアポリス地域(ミネソタ州)のように、農家の取り分が35%、 乳業メーカー(32%)と小売店(30%)を合わせた分が62%というダラス地域とは まったく逆のケースも見受けられる。 一方、同期間中、総じて農家受取価格が大きく変動を繰り返す中で、15地域のう ちの12地域においては、小売価格は安定もしくは上昇傾向にあり、その中の9地域 においては、農家受取価格と小売価格の差が拡大している。当方の試算によると、 全地域の単純平均価格(1ガロン当たり)を見ても、2000年の小売価格は、2.66ド ル(約333円)と98年に比べ0.13ドル(約16円)上昇し、農家受取価格(2000年は1. 05ドル(約131円))との格差が0.17ドル(約21円)増の1.61ドル(約201円)にま で拡大している。 また、レポートでは、各段階における価格水準について、農家と酪農協、乳業メ ーカーと小売店との間でそれぞれ強い相関関係が見られる一方、農家と小売店との 間の相関は低いとの分析もなされている。 GAOは、価格形成に影響を与える要因として、需給状況以外にも、生産・流通コ ストや、連邦ミルク・マーケティング・オーダー制度をはじめとする政府の価格政 策の動向、市場の競争度合いなどを挙げている。特に、小売価格については、消費 者に対し、低価格店であることを印象付けるため、@牛乳の価格を低く設定する代 わりに、他の商品への価格転嫁を行ったり(その逆もある)、A近隣の他店におけ る水準をにらみながら価格を設定するといった、各小売店における独自の販売戦略 によっても影響を受けると指摘している(ただし、廉売防止のため、乳業メーカー や小売店に対し、コスト以下で牛乳を販売することを禁止する州もある)。 なお、牛乳・乳製品の供給チェーンにおいても、市場の寡占化が進展しているが、 これについては、販売パワーが高まり、価格が上昇するという見方と、「規模の経 済」によって、むしろ価格は低下するという見方の両論を紹介するにとどめ、明確 な結論は出されていない。
元のページに戻る