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取引情報義務化制度、多難なスタート(米)



【ワシントン駐在員 樋口 英俊 5月31日発】米農務省(USDA)は5月25
日、4月3日から5月11日までの間に公表されたチョイスおよびセレクト級の牛肉
カットアウトバリューおよびプライマルカットバリューに誤りがあったとして、そ
の訂正値を発表した。カットアウトバリューおよびプライマルカットバリューは、
部分肉の卸売価格などを、それぞれ枝肉および主要な枝肉の構成部位(プライマル
カット)に再構成した卸売指標価格である。

 今回の誤りが生じた原因については、報告された個々の部分肉価格を集計する際
に、コンピューターのプログラムミスにより、格付けされていない低級な部分肉の
価格が誤って算入されたためとみられている。このプログラムは、今年4月2日に
施行された食肉家畜取引情報報告の義務化に合わせて新たに開発されたものである。

 プログラムミスが発見されたのは、毎年その時期にはバーベキューシーズンを迎
え、チョイス級のカットアウトバリューが値上がりし、セレクト級の価格との差が
開くにもかかわらず、今年はそうした傾向が現れなかったことを不審に思ったUS
DAが調査したことによると報じられている。

 訂正されたカットアウトバリューは、当初公表されたものよりも、チョイス級で
平均2.26%、セレクト級で同0.60%、それぞれ高くなっている。生産者は、カット
アウトバリューを生体牛の価値を示すものとして、パッカーとの価格交渉の参考に
していることから、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、今回の誤りにより、
特に情報源の少ない小規模生産者を中心として、多大な損害を被ったと主張してい
る。

 これに対して、USDAの内部検討チームを率いるキース・コリンズ首席エコノ
ミストは、5月24日に開催された下院農業委員会において、「肉牛の売買契約は、
一般に公表されているUSDAの価格情報よりも、独自のビジネス情報を利用した
さまざまなフォーミュラに基づいて行われており、USDAの公表するカットアウ
トバリューを利用して実質的に価格を取り決める契約は非常に少ない。従って、今
回の誤りによる直接的な影響は小さい」との見解を述べた。

 なお、コリンズ首席エコノミストは、今後、間接的な影響も含めて、繁殖経営体、
フィードロット、パッカーなど、それぞれの部門に与えた影響を推計するとしてい
る。また、NCBAもこの問題について、州立大学のエコノミストらと協力して独
自の調査を行うものとみられる。

 生産者への被害に対する補償について、USDAは法的な根拠がないとして消極
的な姿勢を見せており、議会でも、補償を行った場合、他団体が同様の措置を求め
る前例を作ると懸念する意見がある。一方、下院農業委員会のコンベスト委員長
(共・テキサス州)は、立法による補償を検討するとしている。

 食肉家畜取引情報報告義務化制度については、今回の誤り以外にも、パッカーな
どの企業秘密の保持を目的として導入されたいわゆる3/60ルール(報告者の数が3
社未満である場合、または1社の報告するデータが全体の6割以上となる場合、そ
のデータを公表することができない)により、本来の目的を果たしていないとの不
満が生産者の間で高まっており、USDAはこうした問題も含めて、早くも見直し
を迫られている。


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