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【シドニー駐在員 野村 俊夫 6月7日発】豪州は四方を海に囲まれ、外国から の伝染病の侵入を防ぎやすい環境に恵まれている。しかし、ひとたび伝染病の侵入 を許せば農畜産業に甚大な損害が出ることは間違いなく、例えば口蹄疫が発生した 場合には、家畜のと畜処分や畜産物の輸出停止などにより年間約150億豪ドル(約9, 300億円:1豪ドル=62円)もの被害が出ると推定されている。 このため連邦政府は、伝染病の侵入を水際で阻止すべく、2001/02年度(7〜6 月)の連邦予算に約6億豪ドル(約370億円)を盛り込み、輸入検疫検査体制を大 幅に強化することを明らかにした。 当該予算は、今後4年間にわたり、豪州検疫検査局(AQIS)の輸入検疫検査 体制の増強、税関当局による当該検査への協力促進、国際空港・港湾などにおける 入国者・貨物検査の強化、口蹄疫や牛海綿状脳症(BSE)などの危機管理専門委 員会の運営などに充てられる。 これに併せて、全国の国際空港や港湾に配置するAQISの検査官を現状の994 人から1,890人に増員し、X線検査機を12台から57台に増加、特殊訓練犬を擁する 検疫検査チームを34〜100チームに増強するなどの具体的な計画も公表された。 また、豪州から出国する旅行者に課される出国税が、現行の1人1回30豪ドル (約1,860円)から同38豪ドル(2,350円)に値上げされ、その税収が上記予算の財 源として充当される。 一方、万一伝染病が発生した場合を想定した官民協力による緊急対応策の策定も 大詰めを迎えている。連邦政府・各州政府・関連業界の代表からなる豪州動物保健 協議会(AHA)は、不測の事態に迅速に対処するべく「家畜伝染病緊急対応計画」 を取りまとめているが、現在、伝染病の種類に応じて緊急対策コストの負担方法を 定めた合意書の作成が最終段階にさしかかっている。 これは、各伝染病を「人体・環境に対する影響」と「畜産業に対する影響」の度 合に応じて4つのカテゴリーに分類し、あらかじめ政府と間連業界の間で各カテゴ リーごとに緊急対策コストの負担割合を決めておくことにより、緊急時の迅速な対 応を保証するという内容であり、AHAを中心に政府と関連業界が3年前から検討 を重ねてきたものである。 このうち、第1カテゴリー(政府が緊急対策コストの100%を負担)にはニパ・ウ ィルス感染症、日本脳炎など4種類、第2カテゴリー(同80%負担)には口蹄疫、 BSE、ブルセラ病など12種類、第3カテゴリー(同50%負担)にはニューカッス ル病、豚コレラ、牛の結核病など16種類、第4カテゴリー(同20%負担)には鶏伝 染性気管支炎、豚インフルエンザ、豚の生殖器・呼吸器症候群(PRRS)など31 種類の伝染病が分類されている。 AHAは、今月中に政府と関連業界が当該合意書の細部を詰め、2ヵ月後には実 際に合意書を発効させたいとしているが、これが実現すればこの分野では恐らく世 界で初めての官民協力ケースとなるだけに、その動向が注目されている。
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