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立場の違いが際立ち始めた米国の酪農・乳業界



【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 6月7日発】米農務省(USDA)が5月31
日に行った加工原料乳価格支持制度における乳製品の買上価格の変更が、米国の酪
農・乳業界に波紋を投じている。

 同制度は、乳製品の市場価格が低迷した場合、商品金融公社(CCC)がこれを
買い上げることによって、加工原料乳の価格を間接的に維持するという仕組みであ
る。USDAの発表によれば、同日以降の1ポンド(約0.45kg)当たりの買上価格
を、バターについては19.99セント(約24円:1ドル=120円)引き上げの85.48セ
ント(約103円)とする一方、脱脂粉乳については10.32セント(約12円)引き下げ
の90.00セント(約108円)に変更することなどが決定された。その理由としては、
買い上げた脱脂粉乳の在庫がUSDAの処理能力を超えるまでに積み上がっている
ため(同日現在で約5億8千ポンド)、費用負担が増加し、市場が著しくわい曲さ
れていることを挙げている。

 この決定は、乳業メーカーなどが組織する国際乳食品協会(IDFA)が5月22
日にベネマン農務長官にあてた書簡の内容に沿うものとなっている。IDFAは、
バターに比べると脱脂粉乳の買上価格の水準が高すぎるため、これを引き下げるべ
きであり、これによって、国産脱脂粉乳の国際競争力が増すとともに、近年、脱脂
粉乳の代替として輸入が急増している濃縮乳たんぱく(milk protein concentrate
:MPC)の国内生産の増加も期待できるため、輸入MPCの需要も減ると主張し
ている(MPCの輸入動向等については、「畜産の情報」海外編2001年5月号を参
照)。先ごろ就任したばかりのペン新農務次官(農業・国際問題担当)も、IDF
Aの見解を追認するような形で、国産の脱脂粉乳価格が低下すれば「MPCの輸入
は事実上食い止められる」とコメントしている。

 これに対して、全米最大の生産者団体である全国生乳生産者連盟(NMPF)は、
今回のUSDAの決定に、「酪農家にとっての連邦政府によるセーフティ・ネット
が脆弱(ぜいじゃく)化する」として、大きな失望を表明した。NMPFの試算に
よれば、脱脂粉乳の買上価格の引き下げが、連邦ミルク・マーケティング・オーダ
ー制度における最低取引価格の低下をもたらし、これによって農家の生乳販売価格
が平均49セント/100ポンド(約1.3円/kg)下がり、全農家の収入は総額約8億ド
ル(約982億円)減少するとしている。

 また、NMPFは、国産脱脂粉乳の国際競争力が増すという見方に対しても懐疑
的であり、むしろ、今回の決定を契機に、現在超党派の国会議員によって上下両院
に提出されているMPCの輸入抑制を目的とした法案(注:MPCなどの関税分類
を変更し、関税割当を適用するというもの)の成立に向け、一層の努力を傾けてい
く必要があるとの立場を表明している。一方、先のIDFAの書簡は、この法案へ
の反対の立場を示すものであり、USDAもこれに近いとの推測もできそうだ。

 今年末までが実施期限とされている加工原料乳価格支持制度の扱いに関しても、
新農業法の中で来年以降の延長を規定するよう求めるNMPFと、これを廃止して
市場への介入を伴わない新たな農家のセーフティ・ネットを創設するよう主張する
IDFAとの立場の違いが鮮明になってきており、これらの問題をめぐる今後の動
向が注目される。


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