ALIC/WEEKLY


2000年の畜産事情を総括(カンボジア)



【シンガポール駐在員 小林 誠 3月1日発】カンボジアの首都プノンペンでは、
2月21・22日の2日間にわたって、農林水産省家畜生産・衛生局の年次会議が
開催され、国内24県の地方事務所長が2000年の生産状況を報告するとともに、今年
の活動についての、検討が行われた。会議には、局関係者のほか、国連食糧農業機
関(FAO)、非政府組織(NGO)関係者をはじめ、タイを本拠とするチャロン
・ポカパン(CP)などカンボジア国内で活動する民間企業も出席した。

 この会議で報告されたところによると、2000年のカンボジアの家畜飼養頭数は、
牛が281万4千頭(うち役用132万7千頭、繁殖用雌69万3千頭)で前年よ
り2万2千頭の増加、水牛が67万6千頭(うち役用40万7千頭、繁殖用雌19
万7千頭)で前年より3万9千頭増加した。また、同国の食肉資源として最も重要な
地位を占める豚については、197万9千頭(うち繁殖用雌22万3千頭)、豚に次い
で重要な動物性たんぱく源である鶏は、1,502万羽であった。なお、カンボジアでは、
畜産部門で国が政策的に直接関与するのは、役用を中心とした牛および水牛であり、
豚および鶏については、予算上の制約もあり、情報収集を行うにとどまっている。

 カンボジアでは、各種疾病を中心とした家畜衛生対策が重要であるとの認識は持
たれているものの、ワクチンおよび治療薬の購入予算は、2000年については3億レ
アル(約870万円:100レアル=2.9円)であり、これら製剤のすべてを輸入に頼っ
ている現状では、同対策が十分効果を発揮できる状況にはない。また、獣医師につ
いても、村レベルに至るまで十分な数を確保することが困難なことから、この対策
として、村単位で投票によって選ばれた農民に3週間程度の集中研修を行い、村単
位での普及業務や獣医療に準ずる業務を行わせるという制度が、国際機関の資金援
助により開始されることになっている。同国政府は、財政難から、中央政府の大卒
後10年勤務の畜産技官でも、月給は5万レアル(約1,400円)程度と、物価水準を
考慮しても低い水準にあり、家畜衛生対策も、外国からの援助なしにはほとんど機
能し得ない状況にある。

 なお、主食である米の価格は1s当たり300レアル(もみ付き:約9円)と安い
ものの、豚肉は同8千レアル(約230円)である。

 カンボジアの畜産において、家畜衛生に次いで重要な課題となっているのは、畜
産物の価格安定対策である。同国では、雨期にメコン川が逆流し、中央部のトンレ
・サップ湖の面積が乾期の3倍以上にまで拡大し、漁業が解禁される12〜3月まで
の間、魚が潤沢に供給される。同国は、畜産物の価格安定制度を有しないため、漁
業解禁期間における豚の市場価格は、漁業禁止期間の3分の1程度にまで暴落する
ことになり、このことが農家経営を困難にしている。

 現在、カンボジアの農家の豚の平均飼養頭数は3〜4頭であり、国内最大の養豚
場(台湾資本)でも5千頭規模である。規模拡大の障害となっているのは、道路な
どインフラ整備の遅れや市場での販売形態(冷蔵施設がないため、朝と畜したもの
を午前中で完売)のほか、価格が不安定であることも大きい。農家では、米の価格
が安く、十分な収入が確保できないため、豚を少頭数飼養して貴重な現金収入源と
しており、農水省としても、農村経済安定化の観点から、これを奨励したい考えだ
が、それには価格安定が前提となるとの考えである。


元のページに戻る